岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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原作を大胆にアレンジしつつ、リアリティ溢れる演出で物語の神髄を華麗に描いた力作

2019年01月08日

アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語

© Mosfilm Cinema Concern, 2017

【出演】エリザヴェータ・ボヤルスカヤ、マクシム・マトヴェーエフ、ヴィタリー・キシュチェンコ
【監督・脚本】カレン・シャフナザーロフ

映画の時間的制約にも関わらず、ダイジェスト版になっていないのが見事

 「幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。」(新潮文庫版、木村浩訳)

 この有名な書き出しで始まるロシアの文豪トルストイによる長編小説「アンナ・カレーニナ」を大胆にアレンジしつつ、リアリズムと反戦・非暴力という物語の神髄を、華麗にしかも原作のテイストをふまえたリアリティ溢れる演出で描いた、モスフィルムのCEOカレン・シャフナザーロフ監督の力作である。

 然しもの大帝国ロシアが、国際的には新興国であった日本に敗れつつあった1904年の日露戦争真っ只中、アンナの許されぬ恋人であったヴロンスキーと彼女の息子セルゲイは、激戦の地・満州で運命の出会いをする。原作の時代の30年後、ヴロンスキーの回顧によるお語という斬新な設定は、あの大長編の一部を切り取らざるをえない映画の時間的制約にも関わらず、ダイジェスト版になっていないのが見事である。

 原作では、虚飾と嫉妬に満ちたロシア社交界で、不倫という神の掟に背き悲劇の道を辿るアンナとヴロンスキーに対し、領地の農村で厚き信仰心を持ちながら誠実に暮らすリョーヴィンとキティの生き方が対比されるが、この映画では、ヴロンスキーによる回想という設定のため、対比部分は一切描かれない。しかし、その部分は日露戦争でのヴロンスキーの行動によって示されるのである。

 シャフナザーロフ監督は、ヴロンスキーに対し原作に忠実なセリフを言わせつつ、原作を超えたところで贖罪の機会を与える。それは戦地に佇む中国人の少女への献身的な愛情行為、探し出した娘を馬車に乗せて激戦地から逃げ出させ、自身は戦場へ向かうというシーンだ。ここで原作のリョーヴィンとキティの生き方を間接的に肯定するのだ。

 小説の冒頭のような物語を踏まえつつ、トルストイの精神を新たな形で世に送り出した、新しい「アンナ・カレーニナ」である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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