岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品寝ても覚めても B! 純粋ゆえの残酷性が光っている 2018年12月08日 寝ても覚めても ©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS 【出演】東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子 【監督】濱口竜介 体験したくはないがずっと観ていたい、そんな風に思える映画 本作は2016年に『ハッピーアワー』で度肝を抜かれた濱口竜介監督の最新作であり、2人の男の間で揺れ動く女性を描いた恋愛映画である。このように書くと、一見平凡な恋愛映画を想像されるだろう。三角関係を描いた作品は山ほどあるのだから。しかし、本作は単なる三角関係を描いた作品とは一線を画す、相当な変化球の映画なのだ。 それは、ヒロインである朝子(唐田えりか)が自身の感情に対して一切嘘をつかない点にある。同じような顔を持つ過去の男と現在の男、どちらに付いていくかは一緒に過ごした時間でも、思い出の数でもなく、その時の気持ちで選ぶ。その行動に打算はない。しかし、それによって人を傷つけ、人間関係をも破壊することさえある。悪意なくこうした行動をとるということは、ひとえに朝子が非常に純粋な女性だからであろう。そして、その純粋さは残酷性を秘めている。中高生向けの映画では純粋な女性は良い人、素晴らしく愛らしい人として描かれることが多い。その純粋さのもつ残酷性までは描かれない。この点が本作の最大の特徴と言って良い。 そして、朝子がその場その場の感情で動くことによって、観客は彼女の言動から目が離せなくなる。ストーリーがどう転ぶか全く分からないのだ。この先の読めない展開に、いつしかスクリーンに釘付けになっているのである。 濱口竜介監督は、そんな朝子を時にしっとりと、時にピリピリとした緊迫感のある映像で切り取っていく。デートシーンの優しい切り取り方、クライマックスのハードな雰囲気。映像と彼女の心情はシンクロしている。つくづく女性の感情を描き出すのが上手いなあと感じる。極度にキャラクター化せず、自然とそこに佇んでいるかのように撮っている。そこから嘘くささは一切感じない。 こうした濱口竜介監督の手腕によって、本作は2018年を代表する恋愛映画となった。体験したくはないがずっと観ていたい。そんな風に思える映画である。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (8)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2023年12月08日 / 『インファナル・アフェア 4K』3部作 香港ノアールの代表作がスクリーンで甦る 2023年12月08日 / 『インファナル・アフェア 4K』3部作 4Kで蘇った、香港製フィルムノワールの傑作 2023年12月08日 / 映画(窒息) セリフは一切なくモノクローム、これぞ作家の映画だ more 2021年12月22日 / 【思い出の映画館】千日前国際シネマ(大阪府) 戦後、難波の映画街で多くの日本映画を送りつづけた 2017年12月13日 / 十日町シネマパラダイス(新潟県) 震災を乗り越えて街に再び映画の灯を取り戻す 2019年02月20日 / 岡山メルパ(岡山県) 常に街ぐるみの発展を考え続けてきた映画館 more
体験したくはないがずっと観ていたい、そんな風に思える映画
本作は2016年に『ハッピーアワー』で度肝を抜かれた濱口竜介監督の最新作であり、2人の男の間で揺れ動く女性を描いた恋愛映画である。このように書くと、一見平凡な恋愛映画を想像されるだろう。三角関係を描いた作品は山ほどあるのだから。しかし、本作は単なる三角関係を描いた作品とは一線を画す、相当な変化球の映画なのだ。
それは、ヒロインである朝子(唐田えりか)が自身の感情に対して一切嘘をつかない点にある。同じような顔を持つ過去の男と現在の男、どちらに付いていくかは一緒に過ごした時間でも、思い出の数でもなく、その時の気持ちで選ぶ。その行動に打算はない。しかし、それによって人を傷つけ、人間関係をも破壊することさえある。悪意なくこうした行動をとるということは、ひとえに朝子が非常に純粋な女性だからであろう。そして、その純粋さは残酷性を秘めている。中高生向けの映画では純粋な女性は良い人、素晴らしく愛らしい人として描かれることが多い。その純粋さのもつ残酷性までは描かれない。この点が本作の最大の特徴と言って良い。
そして、朝子がその場その場の感情で動くことによって、観客は彼女の言動から目が離せなくなる。ストーリーがどう転ぶか全く分からないのだ。この先の読めない展開に、いつしかスクリーンに釘付けになっているのである。
濱口竜介監督は、そんな朝子を時にしっとりと、時にピリピリとした緊迫感のある映像で切り取っていく。デートシーンの優しい切り取り方、クライマックスのハードな雰囲気。映像と彼女の心情はシンクロしている。つくづく女性の感情を描き出すのが上手いなあと感じる。極度にキャラクター化せず、自然とそこに佇んでいるかのように撮っている。そこから嘘くささは一切感じない。
こうした濱口竜介監督の手腕によって、本作は2018年を代表する恋愛映画となった。体験したくはないがずっと観ていたい。そんな風に思える映画である。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。