岐阜新聞 映画部

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コメディを装いながら、アメリカとイスラエルの特別な関係に踏み込んでいる侮れない作品

2018年12月07日

嘘はフィクサーのはじまり

©2017 Oppenheimer Strategies, LLC. All Rights Reserved.

【出演】リチャード・ギア、リオル・アシュケナージ、マイケル・シーン、スティーヴ・ブシェミ、シャルロット・ゲンズブール、ダン・スティーヴンス
【監督・脚本】ヨセフ・シダー

いつものカッコいいリチャード・ギアではないが、案外似合っている

 世界のユダヤ人総人口は1,358万人(2010年調)であるが、そのうちイスラエルに570万人、アメリカに527万人と81%がこの両国に集中している。アメリカでは、民主党の有力な支持基盤であり、IT系、マスメディア、映画産業などのCEOは多くがユダヤ系である。

 本作はアメリカとイスラエルの親密な関係を背景に、はったりを利かせた言動と、都合のいい拡大解釈で一旗揚げようとする、現代の宮廷ユダヤ人たる仲介屋ノーマン(リチャード・ギア)の、偶然に近い成功体験と、小さな嘘の積み重ねによる大きなしくじりぶりを描いた国際政治コメディである。

 私が今まで狭い範囲ながらも遭遇してきた人たちの中には「政治家に顔が利く」「芸能人と友達」などと、まことしやかに吹聴する人物が少なからずいた。この映画の主人公ノーマンとて同じであり、ニューヨークのユダヤ人社会の有力者たちも、当初は彼のことを怪しげなブローカーであると見抜いていた。

 しかし、彼が巧みに取り入る事のできた政治家エシェル(リオル・アシュケナージ)が3年後にはイスラエルの大統領となり、ノーマンとの再会を大歓迎する様子を見た有力者たちは、手のひらを返したようにノーマンを迎え入れる。一瞬にしてブローカーからフィクサーへと彼の立場が変わるのである。政治家と懇意にしている姿を見せるのが、相手を信用させるのに最も効果的なのは、日米同じなのだとよく分かる。

 フィクサーというと黒幕で、裏で暗躍しているイメージだが、ノーマンは必ずしもそうではなく、安請け合いしてしまってドツボにはまるタイプ。悪党ではなく、どちらかと言うと小心者の小市民という役柄で、いつものカッコいいリチャード・ギアではないが、案外似合っているのだ。

 コメディを装いながら、描くのに勇気がいったであろうアメリカとイスラエルの特別な関係に踏み込んでいる本作。侮れない作品である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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