岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

どの国でも起こりうる普遍的な問題としての本質を鋭く突いた傑作

2018年11月06日

判決、ふたつの希望

©2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS

【出演】アデル・カラム、リタ・ハーエク、カメル・エル=バシャ、クリスティーン・シュウェイリー、カミール・サラーメ、ディヤマン・アブー・アッブード
【監督・脚本】ジアド・ドゥエイリ

背景を知らずに一方的に嫌悪することが、いかに危険であるのか

 キリスト教徒で自動車修理工のレバノン人トニーと、イスラム教徒で建築工事人のパレスチナ難民ヤーセルとの些細な言葉の応酬が、やがて国をゆるがす大騒動へと発展していく過程を描いた本作は、レバノン固有の問題にとどまらず、どの国でも起こりうる普遍的な問題としての本質を鋭く突いた傑作となった。

 事の発端は、トニーの家の配管が壊れていてヤーセルらに水がかかってしまったからだったが、すったもんだがあった後、ヤーセルがトニーに対して「クズ野郎」と悪態をついてしまう。映画を観ていれば、どちらが悪いかは一目瞭然だが、互いに相容れない感情と感情がぶつかりあい平行線をたどっていく。

 この「水かけ論争」が実は些細なことではなく、人種や宗教・思想などの社会的対立に基づいている事を、映画は次第に明らかにしていく。特に、舞台を法廷に移したことにより、我々観客にも対立軸を分かり易く浮き彫りにしてくれ、問題を理解し判断する材料を与えてくれる。

 普段はおとなしくまじめなヤーセルに暴言を吐かせ暴力をふるわせたのは、民族主義的な政党を支持しパレスチナ人に対し差別的な意識を持っているトニーの挑発的な攻撃性だが、彼にも強烈なトラウマがある事が分かってくる。映画の途中までヤーセルに同情し、トニーに嫌悪感を覚えていた私だが、彼の行動・言動のみを見て、背景を知らずに一方的に嫌悪することが、いかに危険であるのかを身をもって知った瞬間であった。

 マスコミに煽られ、政府まで巻き込み「レバノン人」対「パレスチナ人」の対立という大論争になってしまったが、本当は「謝罪」の一点が欲しかっただけなのだ。人種だ宗教だと組織で捉えるのではなく、違いを認め合い、個人と個人で尊重し合う事が大切なのだと分かってくる。トニーがヤーセルの車の故障を直すシーンのさりげなさが答えのひとつであり、人間捨てたもんじゃないことを象徴する名場面となっている。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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