岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

抑制の利いた演出によって新鮮なドラマに

2018年10月19日

オーケストラ・クラス

©2017 Mizar Films. ALL RIGHTS RESERVED.

【出演】カド・メラッド、サミール・ゲスミ、アルフレッド・ルネリー
【監督・脚本】ラシド・ハミ

ライター自身にとっても思い出深い「シェラザード」

 挫折したバイオリニストがやる気のない子どもたちに音楽を教え、幾多の困難を乗り越えてお互いに成長し、感動のフィナーレを迎える。今まで何度も作られ語られてきた月並みな話も、描き方さえ工夫すれば、新鮮なドラマとなる。『オーケストラ・クラス』がよくある話にならなかったのは、ラシド・ハミ監督の抑制の利いたドキュメンタリータッチの演出により、下手な感動を押し付けられなかった点にある。

 この映画全体を貫いているのが、常に中心に音楽があることだ。ダウド先生(カド・メラッド)と騒々しかった子どもたちとの触れ合いの第一歩は、上から目線の言葉でなくバイオリンの演奏だったし、やんちゃなガキ大将サミールの父との和解も、バッハのバイオリン曲だった。ダウド先生は、子供たちに演奏で一番大切なことは「楽しむこと」だと教える。ハミ監督は、音楽の力を信じ、音楽の力だけにまかせて、映画の登場人物たちの心理描写を形作っていった。映画のテーマとピタリと重なる素晴らしい演出だ。

 しかし、むやみやたらと音楽を流していたわけではない。フィルハーモニー・ド・パリで行われるコンサートの直前、廊下で出番を待つ子供たちの緊張の様子を捉えていく時は、音楽はかからず無音となる。音がないからこそ、本番での交響組曲「シェラザード」で、管弦楽がバーンと鳴り響く冒頭のシーンが感動的になるのである。

 このリムスキー=コルサコフ作曲「シェラザード」は、私にとっても思い出深い曲である。高校生の時この演奏に参加した、なじみ深く最も好きなクラシックだ。中でもアーノルドが「ラーー、ラララ、ラララ」とバイオリンソロの美しい旋律を奏でる箇所には、映画を観ていて鳥肌が立つほどの感銘を受けた。

 子どもたちの汚い言葉や言い争いは、映画が始まった時も終わりの時も、ちっとも変わらないけれど、音楽によって少しばかりの幸せを味わえたようだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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