岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

茶道の稽古を通して描くゆるやかな成長物語

2018年10月12日

日日是好日(にちにちこれこうじつ)

©2018「日日是好日」製作委員会

【出演】黒木華、樹木希林、多部未華子
【監督・脚本】大森立嗣

タダモノじゃない先生 樹木さん圧巻の好演

 二十歳の春、典子(黒木華)は母に勧められて、お茶を習うことになる。大学生活を惰性のように過ごしていた典子は、仲のいい従姉妹の美智子(多部未華子)が、ノリ良く背中を押し、道連れになってくれたこともあり、その勧めに従う。お茶の師匠は、周囲から「タダモノじゃない」と噂される武田先生(樹木希林)だった。

 初日、いきなり茶室に通されたふたりに、早々に稽古が始まる。棗(なつめ)を「こ」の字で拭き清める。茶碗に茶筅を通し「の」の字で抜いて、茶巾を使って「ゆ」の字で茶碗を拭く。出された菓子は直ぐに食べ、お茶を飲み干す時にはズズッと音を立てる。茶室には左足から入り、畳一帖を六歩で進み、七歩目で次の畳へ…意味も理由も分からない所作にふたりは戸惑い、ぎこちない動きはコミカルに描かれる。お茶はまず「形」から、「形」を作っておいて、その入れ物に後から「心」が入るもの…という武田先生の教えに反発を覚えるふたりだったが、毎週土曜日の稽古は続く。

 原作は森下典子が茶道にふれた実体験をもとにしたエッセイで、20年におよぶゆったりとした時の流れが描かれている。

 武田先生の茶道教室は古い木造の一軒家で、小さな庭があり、障子に空いた小窓からは四季の移ろいが見える。床の間の掛け軸には様々なメッセージが込められ、茶道具と和菓子の美しさは日本間の空間を見事に切り取る。四季折々の稽古風景や年中行事に典子の日常が重なる。穏やかな反面、時には、激しい感情の発露も見えたりする。

 子供の頃に観て何も分からなかったフェデリコ・フェリーニ監督の『道』(1954年)に、今、大人になった私は涙を流すほど感動する。世の中にある「すぐ分かるもの」と「すぐ分からないもの」、その分からないものを時間をかけ理解する。ゆるやかな成長物語として、清々しい映画となった。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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