岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

そよ風が吹くような心地いい傑作

2018年08月11日

モリのいる場所

©2017「モリのいる場所」製作委員会

【出演】山﨑努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史
【監督・脚本】沖田修一

コミュニティーの原点を教えてくれる、心温まる光景

 他人とチョッと時間軸のずれた、人のいい好人物を主人公に、ほのぼのとしたユルイコメディーでクスクス笑わせてきた沖田修一監督の最新作は、画家・熊谷守一の不老不死の仙人のような日常生活を描いた、そよ風が吹くような心地いい傑作だ。

 モリの住む家は、玄関も縁側も常に開けっ放しだ。そこへ用のある客もない客も勝手にやってきて、勝手にお茶を飲み、お茶請けを探し、くつろいで帰っていく。この解放感、みんなが集まれる空間が、コミュニティーの原点だと教えてくれる。最後には、建設を反対していた隣のマンションの工事現場の人たちまで招き入れて宴会をする。呉越同舟的な心の広さに満ち溢れた心温まる光景だ。

 モリの描く絵は極端にシンプル化された造形で、輪郭線が特徴の画風だ。昭和天皇が「何歳の子どもが描いた絵ですか?」と問いかけるシーンがあるが、すでに確立された社会的評価に捉われない、率直な感想を言われたのが素晴らしい。昭和天皇をコメディーの要素として使った監督のセンスと勇気に脱帽するが、モリの絵の特徴を端的に表してる。

 評価してもらおうと持ってきた子どもの絵に対し「ヘタ、ヘタですね」と言い親をがっかりさせるが、「ヘタでいい。上手は先が見える。ヘタも絵のうち。」と付け加える。完成された上手な絵ではなく、もっとうまく描きたいという気持ちの方が大事であると教えてくれる。

 モリが散策する庭には常に驚きと発見があり、毎日変化に満ちている。風にそよぐ木々や草花、空に浮かぶ雲、ふりそそぐ光線。ヤモリに、イモリに、小虫たち。じっくり観察していると、アリは左側の2本目の足から動き出すことを発見する。小さな庭の中の小さな変化や僅かな動きから、自然の豊かさ、日常の尊さをうかがわせるのが素敵だ。

 夫婦役の山﨑努と樹木希林は、人生に抗わず、声高に主張せず、淡々と生きているモリと奥さんを飄々と演じ、いつもながらの名演技である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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