岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品万引き家族 B! パルムドール受賞も当然と思える最高傑作 2018年08月03日 万引き家族 ©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro. 【出演】リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒方直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林 【監督・脚本・編集】是枝裕和 是枝裕和監督の『万引き家族』は、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞も当然と思えるほどの傑作。これまで数々の傑作・秀作をコンスタントに撮り続けてきた是枝監督の最高傑作であるばかりか、昨年キネマ旬報ベスト・テン外国映画1位に輝いたケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』に匹敵するほど素晴らしい作品だ。 ケン・ローチ監督が弱者に不寛容な社会に物申す抑えがたい熱意で、引退宣言を撤回して『わたしは、ダニエル・ブレイク』を発表したように、是枝監督も『万引き家族』の創作過程の核に怒りの感情があったと語っている。 『万引き家族』は、万引きや年金の不正受給などの犯罪に手を染める家族を描いているが、彼らの心根のやさしさや互いを思いやる気持ちは、すさんだ事件が後を絶たない現代社会にあって、かけがえのないものに感じられる。やってはいけないことをしていても、そこまで彼らを追いやり見向きもしない社会の無慈悲さは如何なものか。 オリジナル脚本による映画が作りづらい日本映画にあって、フィルモグラフィーの大半がオリジナルである是枝作品は、自身の脚本を撮影現場で手直ししながら、より自然でニュアンスに富んだドラマを構築していくスタイルで作られている。自身も言及しているように、家族にこだわり続ける是枝監督は70・80年代の山田太一や向田邦子のテレビドラマに大きな影響を受けていて、それが彼の作品のディテールの豊かさや心に響くダイアローグの数々に反映しているように思う。未見の方のために具体的には書かないが、この作品ではこれまで以上に忘れがたい素敵なシーンがたくさんある。 俳優陣のアンサンブルの素晴らしさも是枝作品の魅力。他の俳優が思い浮かばないほどのはまり役のリリー・フランキー。カンヌでも絶賛されたという安藤サクラの感情表現。今まで見せたことのない樹木希林の新たな一面。出しゃばり過ぎない松岡茉優の輝き。さらに、是枝監督は毎回子役から最高に自然な演技を引き出し驚かせてくれるが、祥太役の城桧吏は『誰も知らない』の柳楽優弥に迫る好演。ゆり役の佐々木みゆに至っては、演技とは思えない自然なリアクション。そして、彼らが演技で奏でる見事なハーモニー。 平明な語り口で、観客の思考を喚起させる必見の傑作だ。 語り手:井上 章映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。 92% 観たい! (46)検討する (4) 語り手:井上 章映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない 暢気なユーモアが緊張に変わるロードムービー 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない シリアスな内容を、ユーモアと詩情で包んだ瑞々しい映画 2023年09月25日 / ふたりのマエストロ 指揮者親子のハートフルコメディ more 2018年06月20日 / CINEMA e-ra(静岡県) 映画を文化として守りたい…という民意に支えられて 2018年05月30日 / 名古屋シネマテーク(愛知県) 作り手も観客も映画と真剣に向き合える映画館 2021年09月08日 / 【思い出の映画館】浅草東宝(東京都) 大晦日は浅草寺に詣でてオールナイトで年を越す more
是枝裕和監督の『万引き家族』は、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞も当然と思えるほどの傑作。これまで数々の傑作・秀作をコンスタントに撮り続けてきた是枝監督の最高傑作であるばかりか、昨年キネマ旬報ベスト・テン外国映画1位に輝いたケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』に匹敵するほど素晴らしい作品だ。
ケン・ローチ監督が弱者に不寛容な社会に物申す抑えがたい熱意で、引退宣言を撤回して『わたしは、ダニエル・ブレイク』を発表したように、是枝監督も『万引き家族』の創作過程の核に怒りの感情があったと語っている。
『万引き家族』は、万引きや年金の不正受給などの犯罪に手を染める家族を描いているが、彼らの心根のやさしさや互いを思いやる気持ちは、すさんだ事件が後を絶たない現代社会にあって、かけがえのないものに感じられる。やってはいけないことをしていても、そこまで彼らを追いやり見向きもしない社会の無慈悲さは如何なものか。
オリジナル脚本による映画が作りづらい日本映画にあって、フィルモグラフィーの大半がオリジナルである是枝作品は、自身の脚本を撮影現場で手直ししながら、より自然でニュアンスに富んだドラマを構築していくスタイルで作られている。自身も言及しているように、家族にこだわり続ける是枝監督は70・80年代の山田太一や向田邦子のテレビドラマに大きな影響を受けていて、それが彼の作品のディテールの豊かさや心に響くダイアローグの数々に反映しているように思う。未見の方のために具体的には書かないが、この作品ではこれまで以上に忘れがたい素敵なシーンがたくさんある。
俳優陣のアンサンブルの素晴らしさも是枝作品の魅力。他の俳優が思い浮かばないほどのはまり役のリリー・フランキー。カンヌでも絶賛されたという安藤サクラの感情表現。今まで見せたことのない樹木希林の新たな一面。出しゃばり過ぎない松岡茉優の輝き。さらに、是枝監督は毎回子役から最高に自然な演技を引き出し驚かせてくれるが、祥太役の城桧吏は『誰も知らない』の柳楽優弥に迫る好演。ゆり役の佐々木みゆに至っては、演技とは思えない自然なリアクション。そして、彼らが演技で奏でる見事なハーモニー。
平明な語り口で、観客の思考を喚起させる必見の傑作だ。
語り手:井上 章
映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。
語り手:井上 章
映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。