岐阜新聞 映画部

クロストーク

『コットンテール』リリー・フランキーさんトークショーレポート

第81回CINEX映画塾 映画『コットンテール』が4月27日岐阜CINEXで開催された。主演のリリー・フランキーさんがゲストで登壇。そのトークレポートをお届けする。(聞き手:岐阜新聞映画部 後藤/文・写真:涼夏)

 

リリー・フランキーさん(以後 リリーさん)
「今日は本当に急だったのに、ゴールデンウィークの初日に来ていただいてありがとうございます。この映画で「ぜひ来てください」と言われるのはイギリスにいるパトリック(・ディキンソン)監督も多分すごく喜んでいると思います」

後藤
「岐阜はお越しになられたことはありますか?」

リリーさん
「岐阜は結構来ています。お仕事の時もありますし、ご飯を食べに連れてきてもらったこともありますね。でも柳ケ瀬では飲んだことがないんです。駅から高島屋の方に向かいながら美川憲一さんが歌っている柳ケ瀬って、どこでみんな飲んでいるんだろうと思って」

後藤
「飲み屋街では、非常に昔から歴史のある街なので、よければ夜もとどまっていただければと思います。『コットンテール』の話に入りましょう。撮影はいつ頃からされたんでしょうか」

リリーさん
「一番最初にパトリック監督から台本をもらったのは 4、5年ぐらい前なんです。僕は当然その時が初対面でしたが、監督の強い思いがありました。撮影をしようとなった頃に徐々にコロナ禍になっていくんですよ。この映画の撮影も何度か延期になりました。撮影できたのは、ちょうど延期になった東京オリンピックがやっていた頃です」

後藤
「2021年ですかね」

リリーさん
「東京でオリンピックをやっていた最中に、僕はイギリスに行っていたんです。隔離もされました」

後藤
「隔離も経験されたんですね。撮影も相当難航したんですか?」

リリーさん
「撮り出したらスムーズですよ。イギリスに着いて隔離されましたが、日本と違って、もう少しコロナの政策は緩くて、もうその時点でマスクをしている人はあまりいなかったです」

後藤
「隔離は厳しかったですよね」

リリーさん
「厳しかったです。日本に帰ってきてから隔離されるんですけど、日本の隔離が一番地獄でした。空港に着いたらそのままホテルに連れて行かれて、そこで1週間、窓も開かない、外の空気も吸えない状態で。でもイギリスでは着いたらすぐ映画の会社が用意してくれたホテルで、僕がバスタブが欲しいと言っていたもので、僕の部屋はホテルのスイートルームだったんです。 しかも2階建てでメゾネット。「うわ、外タレの主役感ある」と思いました(笑)」

後藤
「それはすごい」

リリーさん
「ご飯は好きなものを言ってくれたら買ってくるから、何が食べたいか言ってくれ。ルームサービスは好きなものをホテルに頼んでいい」と言われました。しかも昼の3時になったら絶対アフターヌーンティーが来るんです。もうお姫様みたいで。隔離されていましたが、もう一生ここでいいと思って(笑)」

後藤
「窓も開けていいんですか?」

リリーさん
「窓も開くんです。その頃日本はまだワクチン接種が始まっていませんでした。撮影スタッフはイギリス人のスタッフが4割で、6割は他のヨーロッパから来ているんですが、みんなワクチンを打ってきていたんです。それで僕がワクチンを打たないで行くわけにはいかないので、ワクチンを打ってからイギリスに行くというのが結構大変でした」

後藤
「パトリック監督の脚本は完全に当て書きのように感じますが、リリーさんをご存知だったということですよね」

リリーさん
「パトリック監督が日本映画の影響を受けて映画監督を志したそうで、溝口健二監督の大ファンで。 溝口監督のお墓は日本に2か所あるらしいんですが、2か所とも行ったと。今回、奥さん役は木村多江さんなんですが、パトリック監督は映画『ぐるりのこと』を観て、強い思いがあってのオファーで、僕自身も木村さんとは『ぐるりのこと』以来の共演になりました。イギリスとか日本とか、どの先進国でも共通している高齢化、少子化という問題があります。人が長生きになるということは、介護問題をはらんでいるわけじゃないですか。日本でも50代の子供が80代の親を介護していたりしますよね。映画では奥さんが若年性の認知症で夫が介護している設定です」

後藤
「奥さんは痛みに苦しんでいますが、認知症で痛みはあるんですか?」

リリーさん
「知らなかったんですが、認知症はめちゃくちゃ痛みも伴ったりすることもあるらしいんです。僕らの中では認識がありませんが、そういう症状もあるそうです。パトリック監督と木村さんの中でどういう原因で明子が死んだのかということを話し合ったみたいですが、パトリック監督からは演じる僕と木村さんは別に知らなくていい、でもその代わり、ずっと僕にはカメラのところをぼーっとした目で見ていてくれと指示がありました。考えないでほしいということでした」

後藤
「撮影期間はどれくらいですか?」

リリーさん
「日本で約1週間撮影したんです。 その後で、ロンドンで1週間撮影して、ウィンダミアで2週間撮影したんですが、ロンドンのシーンがほとんどなかったんですよ」

後藤
「確かに、そうですね」

リリーさん
「パトリック監督はすごいなと思ったのは、全部編集で切っていることです。僕はロンドン中を歩いているんですが、映画ではタクシーの中からバッキンガム宮殿を見ているぐらいしかなくて。東京のシーンもいっぱい切っています。 長い期間撮ったらなかなか切れないですよね。だってそれを全部使ったら、めちゃくちゃリッチな映像の映画になるんですから。日本の風景があって、ロンドンの風景があって、そしてウィンダミア湖に行って。でも監督は多分ウィンダミアに行くまでは横に広い画を見せたくなかったんでしょうね。」

後藤
「監督が切ったせいなのか、上映時間も90分程度の映画で見やすかったです。溝口監督の作品を知っておられるから、シンプルにされているのかもしれませんね」

リリーさん
「とてつもなく説明していないからわかりにくいこともたくさんあります。イギリスでは当たり前のことでも、日本人には全然当たり前のことじゃないものが説明されずにそのままあるんです。乗る列車を間違えて、降りた駅で自転車を拝借していますが、あれも駅員さんが駅の改札にチェーンをかけるシーンが切られてしまっているからわかりずらいですが、見た目は昼でも夜の10時前ぐらいなんです。サマータイムで、夜の9時半でも全然外は明るい。僕が乗り間違えた列車が最終列車だったんです。ヨーロッパの人ならわかりますが、日本人にはわかりにくいだろうなと思います。監督が外国人だからこそ切り取られている日本だなというところも多々ありますが、逆にそれはもうそれでいいんじゃないかなと思っています。分かりにくいと言えば、途中道に迷って助けてくれる親子、本当に親子なんです」

後藤
「確かに名前が一緒ですね」

リリーさん
「キアラン・ハインズと、娘役のイーファ・ハインズ。初めて親子で共演をしていますが、日本人が見ると本当の親子なのに、ちょっと親子に見えなかったりするじゃないですか。イーファさんのお母さんはベトナム系のフランス人なんですよ。だから、ちょっと肌の色とか、顔つきとかが違うんです。この辺の感覚も、日本にいるとわかりにくいですよね」

後藤
「東京のシーンのファーストシーンとか、妻のお葬式の日にビルの人とすれ違っても挨拶もせず、そのまま市場で万引きしているシーンはなぜ万引きしているのか不思議でしたが、監督が『万引き家族』をオマージュしているのかなと思っちゃいました」

リリーさん
「それ以前に市場で湯がいたタコを売っているというのも不思議です(笑)。 階段ですれ違うおじいさん役の俳優さんに僕は久しぶりに会ったんです」

後藤
「他の作品でもご一緒されていたんですか?」

リリーさん
「前会った時は、僕とピエール瀧があの人を埋めた時でした(笑)」(注:映画『凶悪』)

観客から
「役作りはどういうきっかけでされますか」

リリーさん
「役作りは基本的に監督に「痩せておいてほしい」とか「こういう風にしてほしい」とか何か言われない限り僕はしないです。自分が勝手にやったことが監督の思いと違うのが一番良くないと思っていて。だから役作りもしないし、実際に撮影になるまではセリフを口に出して言ったことが1回もないです。 ただ読んで覚えるだけで、口にもしないというか。自分が1人で勝手にこの役のことを形にするのは、自分の中ではちょっと違うというか。監督との共同作業ですからね。痩せておいてくれと言われ時には1ヶ月で7キロぐらい落としました」

後藤
「来たオファーは基本的には受けられるんですか?結構選ばれますか?」

リリーさん
「撮影の仕事は時間がかかるので、スケジュールと照らし合わせて、まずその脚本が面白いか、自分がどう思うかで決めます。僕が出たいなと思うような映画は、日本の中でも海外でもちょっとインディペンデントなものになりますね」

観客から
「今まで共演した俳優さんの中で、圧倒された俳優さんだったり、演技が素敵だなと思った俳優さんがいれば教えていただきたいです」

リリーさん
「これは取材でも結構言っていたんですが、 僕が出演した『美しい星』の吉田大八監督がその次に撮った映画が『羊の木』という錦戸さんが主演の映画だったんです。そこで錦戸さんは振り回される役で、今回もお父さんに振り回される息子の役。錦戸さんは受けのお芝居が上手です。素晴らしい俳優さんだなと思います。この何年かで韓国、フィリピンとか、いろんな国の人と仕事しましたが、どこに行ってもみんな俳優さんはすごいなと思っています」

観客から
「英語のセリフも結構あったと思うのですが、苦労された点があれば教えていただきたいです」

リリーさん
「本当に英語は苦労します。イギリスでの撮影はマネージャーは連れて行っていなくて、いつも海外に行く時に来てくださる通訳さんと、お芝居ができる英語を話せる方2人についてきてもらいました。今回の役はあんまり英語が流暢でもおかしいんです。この人が英語ができる理由は若い時代に英語教師をやって食っていたからぐらいのものなので。だから、在住経験はないけど、相手が何を言っているかはわかるし、流暢ではいけないけど、あんまりたどたどしいのも、会話が成立しなくなるし、イギリス映画であるということで、 イギリス英語で喋ってほしいという要望もあるし。まさか自分で英語を喋る必要があるような人生を送ると思っていないじゃないですか。自分の本が海外で翻訳されていて、サイン会で昔、いろんな国に行きましたが、 翻訳家の人が翻訳してくれるし、通訳さんがいましたから、英語が喋れないことで、そんなに苦労した覚えがないんですよ。でも今回は韓国に行ってもフィリピンに行っても英語が共通言語になっているから同じ状態になりました。だから本当に若い時の自分に言いたいです。「お前いつか英語喋れないと苦労するよ」って(笑)。これから結構海外で撮ったものが他にも公開されると思うんですが、この時のストレスは未だに続いています。英語のセリフがうまく喋りたいということよりも、スタッフの人に感謝の気持ちを自分の言葉で伝えられないというストレスがあるんです。この撮影はもうほぼ「サンキュー」と「ノー」だけでやり過ごしてきました。」

後藤
「お時間が来てしまいました。最後に皆さんに一言お願いいたします」

リリーさん
「ぜひこの映画、皆さんに観ていただけるように拡散
よろしくお願いします。岐阜で呼んでいただきましたが、 また全国の映画館、いろんな映画館で呼んでいただいて、劇場で上映したいです。実はまだこの作品はイギリスで封切りになっていないんですよ。公開する時にはロンドンに多分行くことになると思います。皆さん呼んでいただいてありがとうございました。岐阜はすごく映画館が多いことで結構有名ですが、CINEXやロイヤル劇場というシネコンではない地域の映画館があることが、その街の豊かさの1つの指標だと思います。そして突然こうやってイベントをして、これだけの人が集まってくれるという、岐阜の人たちの映画に対する気持ちがいいですよね。こういう気持ちで劇場を守っていければいいですね」

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