岐阜新聞 映画部

クロストーク

『東京カウボーイ』井浦新さんトークショーレポート

第83回CINEX映画塾『東京カウボーイ』が6月16日(日)に開催された。サカイ・ヒデキ役の井浦新さんが登壇したトークの様子をお届けする。(聞き手:岐阜新聞映画部 後藤/文・写真:涼夏)

 

後藤
「83回目の映画塾ということで、今日は井浦新さんをお迎えしました」

井浦新さん(以後 井浦さん)
「83回目ってすごい。ずっと続けてください」

後藤
「こうやって来ていただけることで、続けていけます。井浦さんみたいに他の映画でもゲストが来ていただけると嬉しいんですが」

井浦さん
「誰のトークが見たいですかね。綾野剛くんとか見たくないですか。岐阜出身ですよね?」

後藤
「そうなんです」

井浦さん
「是非呼んでください。彼は絶対来ると思うので。CINEXさんは素敵な館内ですよね。こっちから見るとすごい。 映画館のミニシアターの中はそれぞれ違うじゃないですか。結構初めて見るタイプの館内です。すごい素敵な照明ですが、なぜこうなっているんですか?」

後藤
「シネコンが出始めるのに先手を打って2000年に岐阜東宝、岐阜松竹があったところを1つにしたんです。デザインも凝っています。4館あって本当はCINEX1は300人も入る劇場でしたが、そこはお芝居小屋になりました。それでも今は3つの映画館があります」

井浦さん
「さっきロイヤル劇場も行ったんです。行ったことある方っていらっしゃいますか?すごく素敵です。35ミリの映写機のある映写室も見させてもらったんですが、フィルムで古き良き時代の映画が600円で観られるというのは本当にすごい。 映画館というよりちょっと博物館っぽいです。何が気になったかというと、ロイヤル劇場のいろんなところに書かれている「トイレはこちら」や「ゴミ捨てはここ」と書かれている文字フォントの書体が、昭和のいい時代そのままなんです。それはもう買えないものなので、いいなと思いました。椅子もCINEXの椅子はすごい柔らかい感じなんですけど、ロイヤル劇場の椅子は本当に古き良き時代の映画館の椅子って感じでいいですよね。ここから近いので、帰りに覗いてみてください」

後藤
「『東京カウボーイ』に出演するきっかけを教えてください」

井浦さん
「マーク・マリオット監督は元々ドキュメンタリーを撮られている監督で長編映画は『東京カウボーイ』が初めての作品です。ブリガム・テイラープロデューサーはディズニーのプロデューサーで『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの作品に携わっているプロデューサーです。だから話していると、普通に「ジョニーはね」と言ってジョニー・デップの話しになったりするのですが、このプロデューサーが映画マニアなんです。日本映画のロイヤル劇場でかかっているような昔の映画から1980年代、90年代の日本映画とかいい時代の日本映画をほとんど観ていて。そういう流れの中で僕のデビュー作や、それ以降出演している最近の作品も観てくださっていたんです。この作品は『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』と同じようにアメリカ映画の中でも、監督とプロデューサーが自分たちのお金で作ったインディペンデント映画です。なので、誰からの縛りはなく、監督とプロデューサーが作りたいものを純粋に作れている作品です。日本人のこのヒデキという役をやってもらう役者を考えた時に浮かんできたのが、僕の顔だったみたいで、オーディションはなくて、指名でやってほしいとオファーをいただきました」

後藤
「マーク監督は山田洋次監督にもついて勉強していたと伺いました。『男はつらいよ』のお手伝いをされていて。だから、日本映画のことも本当によくわかっていて、心情的なことも日本人のことが分かった上で、これを東京からモンタナに持っていったらこんな物語が出来たと」

井浦さん
「そこは監督だけではなくて、今回婚約者の役で出ていた藤谷文子さんが脚本も手掛けています。また『忍びの家』という賀来賢人くんがやっているNetflix作品で監督をやっているデイヴ・ボイルさんも脚本家で入って、藤谷さんとデイヴ・ボイルさんの共同脚本という形で作られています。アメリカの人たちが日本を描こうとすると、日本というよりもアジア、中国が混ざったりすることがありますよね。そのよくありがちなものに絶対にしてはいけないと。日本人としての心情だったり、日本のカルチャーとアメリカのカルチャーの違いを日本とアメリカそれぞれの脚本家を立てることでバランスを取って作っています」

後藤
「そこがすごくしっかりしているので、さらに新さんのキャラクターが喜劇としても際立って、ヒデキの滑稽さ、一生懸命さが出ているなと。モンタナの景色も素晴らしくて。そこに新さんが溶け込んで。藤谷文子さんは脚本担当ということですが、元々日本で俳優として活動されていましたよね?」

井浦さん
「あまりこの業界には興味がなかったらしいんですが、10代の頃に近所のおばちゃんに勝手にオーディションに書類を出されて、それで決まっちゃったと言っていました。その後『ガメラ』ですごく有名になるんですよ。今は日本を離れてアメリカで生活をされていて、脚本家として仕事をしています。だから最初本人は映画に出るつもりはなかったみたいです。脚本を書いていったら、監督たちから「どう見てもケイコはアヤコだから、アヤコがやって」という形で決まったらしいです」

後藤
「実は私、先週吉祥寺でのプレミア上映会に行きまして。藤谷さんも監督も来ていて、お2人が話すのを間近に聞いたんですが、すごくウィットに富んだ会話でしたね。監督もめちゃめちゃ明るい方で、本当にキャストもスタッフも楽しんで作っている雰囲気が感じられました。いろいろお話もされたんですか?」

井浦さん
「撮影する前から監督、プロデューサーはこの作品では人と人とのコミュニケーションをしっかり描きたいとずっと言っていました。『東京カウボーイ』は2022年、先程上映した『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』の半年前に撮影されたものなんですが、まだ日本ではコロナ禍で、まだいろんなものがスムーズにいかなくて、マスクをしていない人たちが「なぜしていないの?」と思われるような、そんな状況の頃でした。だからこそこれが上映される頃には、またコロナ前の時に戻っていたらいいよねというような思いもありました。一度止まってしまった人と人とのコミュニケーションをここではしっかり描きたい、国境を越えてそれを描く、普遍的なものだからこそ、そこをしっかり描きたいけれど、とにかく芝居をしないようにみんなで気を付けてやろうみたいなことを言っていたんです。だから、もちろん僕に対してもそうですし、登場してくる俳優たちの芝居が強く出すぎたとなったら、もう1回やってみようと撮り直す。もちろん芝居はするんですが、面白く見せたいとか、ここは面白いところという感じの芝居や、感情を伝えたいから大きくなった芝居を監督が見ていて撮り直すので、俳優たちもみんなこれで大丈夫なのかなと思うぐらい淡々と芝居していました。藤谷さんとも撮影しながら話していたんですが、この映画は何か大きな事件が起きたりするわけでもないので、これを観た人たちはどう受け取るんだろう、何が皆さんの中に残っていくんだろう、と話していました。今年の3月に大阪アジアン映画祭でプレミア上映した時に、会場からクスクス笑い声がずっと聞こえていたことに監督がすごい喜んでいて。アメリカの映画祭での上映では確認していたんですが、この映画にはアメリカンジョークみたいなものがちりばめられています。それが国を超えた時に、本当にこれが楽しいのかなと不確かだったと思うんですが、中には声を出して笑ってくださる方がいて、日本での反応を監督がすごい喜んでいました。僕はもうとにかく優しくて、みずみずしい気持ちになる映画になったら、と思っていたんですが、ちゃんとその中に笑いがあったりとか…正直僕は演じながらここは笑うところなのかどうなのか、わからないでやっていました。「このセリフは観る人を笑わせるところでしょ」と掘り下げないでただそのセリフを吐き出すということだけにしようと思い、演じました」

後藤
「今日観たお客さまもいろんなシーンで笑ったと思いますが、ヒデキが初めてロープ投げを成功させるシーンがあるじゃないですか。ハビエルに「見てくれよ!」と喜ぶシーン、あそこもすごい面白くて、大笑いしました」

井浦さん
「あのシーンはヒデキがロープ投げをやっているというト書きぐらいしか脚本には書かれていないんです。だから入るか入らないかは撮影の時にやってみようという感じだったんです。なるべくヒデキは下手な方がいいので、ハビエル役のゴヤさんはずっと練習していて、僕は練習しないで見ているだけにしていたのに、1発で入っちゃったんです(笑)。ほんとに入っちゃったので、スタッフさんもみんな大笑いしそうなのを声を出さないで堪えて撮っていました。あれはライブですよ」

観客から
「今回の映画でも新しいことに取り組まれていると思うのですが、新しい環境や、初めてのことに取り組む時にどういうことを意識されているのか、どういったことを考えていらっしゃるかをお聞きしたいです」

井浦さん
「新しいことに挑戦する時はやっぱり怖いし、不安だらけで、成功するビジョンはなかなか見えづらかったりもします。そういう方向に持っていきたかったとしても、結構頭で考えるとまだやってもいないのにいらないことがどんどん出てきてしまったりとかして、気づくとそこに時間がかかって進まず、結果何にもやれていなかったりというパターンを何度も繰り返してきているんです。ですから新しいことに取り組む時は、とりあえずお腹を壊すかもしれないけど、ちょっと食べてみようかなという精神でまずやってみます。まず一歩前に足を出していく。あとはお腹を壊すけど、食べてみてお腹を壊したら合わなかったんだなとか、感染して一瞬大変だけど、体がそれで免疫を持って強くなって、次来た時は結構軽傷で済んだりとかするから感染しておこうかなという結果に至ります。それは1回やってみないとわからないので、新しいことにチャレンジする時は、とにかくまずやってみる。結構シンプルです。だから正直英語のセリフを話すことができるビジョンがなかったです。今まで英語のセリフでのシーンはありましたが、全編英語でというのは初めてだったので、この英語の台本を覚えられるのかなと頭で考え始めると結局進まないので、まずは1ページ1ページ読み続けていく。 あとはもう現場に行ってとにかくやってみる。間違ってもいいからやってみようという気持ちでこの作品にも挑んでいきました」

観客から
「私は今高校3年生で、高校生活もあと少しで終わってしまうのですが、高校生でやっておくべきこととか井浦さんの学生時代の思い出を聞かせていただけると嬉しいです」

井浦さん
「自分が経験したからなんですが、英語でなくてもいいですが、日本語以外の言葉をどんどん喋れるようになるということは本当に必要だと思います。僕自身はどちらかというと日本だけでいいやと思ってやってきたタイプの古い思考の人間だったりするんです。海外の作品も、ハリウッドに行きたいとかあまりそういう発想は自分の中になくて、日本で素晴らしい作品を映画人たちと一緒に作っていれば、いつか世界は絶対に日本を見ているから、オーディションに行かなくても本当に使いたい人だったら、監督だったら観ているでしょと思うし。小さくても大きくても関係なく日本映画をやっていれば海外の人たちは絶対に観てくれているはずだと思っていて、声をかけてくれて出会ったのがこの作品です。だからすごく嬉しいですし、そう思ってきてよかったなと思うんですが、ここまで26年ぐらいかかっているんです。頑なに別に英語は話せるようにならなくてもいいやと、どこかで諦めてしまった自分がいたからというのもあるんですが、海外に行くとヨーロッパでもアジアでも、とりあえず英語はみんな話せるんです。ここまで英語はちゃんとみんなが話せるようになっているんだと逆にびっくりするんですが、海外の教育がすごいレベルが高くて、自分の国の言葉と英語かスペイン語あたりが結構主流だったりするんです。英語は、どこに行ってもとりあえずコミュニケーションを取るためには使えますし、1人で世界中旅ができるので、そんなことができるんだったら、やっておけばよかった、早くから他の国の言葉をどんどん話せるように学ぶという行動力を持っておけばよかったなと思っています。日本でずっと生きていく、活動していくとなったとしても、日本にもいろんな国からいろんな人たちが集まってくるので、やっぱり日本語だけじゃなくて違う言葉を知る、話せるようになるというのは必要です。自分の高校時代なんてもう本当にクソみたいなもので、何にも面白くないのでパスさせてもらいます。 僕はきっと同級生とかに「井浦新って、今俳優をやってるけど、あれ同級生だったんだって」「マジで?」と言われるぐらい、本当に存在感0でいなかった人みたいになっているので。ずっと部活だけやっていた学生時代でした」

後藤
「部活は何をやっていたんですか?」

井浦さん
「部活は僕はサッカーをずっと9年ぐらいやっていて、そこから球技と全く違うものをやりたいと思って、高校生の3年間だけ体操部に入って体操をやりました」

観客から
「ありがとうございます。生の”クソ”が聞けて嬉しかったです」

井浦さん
「そうですね、でも音域が違うんですけどね(笑)」

後藤
「『東京カウボーイ』は今日は先行上映で、7月13日から2週間、こちらの映画館で上映しますので、ぜひいろんな方にオススメいただいて観に来てください。よろしくお願いします。最後にでは井浦さん一言よろしくお願いいたします」

井浦さん
「CINEXさんは僕が参加した作品を結構上映してくださっていたので、いつか行きたいと思っていました。2021年に俳優たちでコロナ禍のミニシアターを応援しようとMini Theater Parkという活動をやりました。その時に全国のミニシアターを俳優たちが1人1館名前をあげていく動画を作りました。今でもまだ見られると思います。その時に綾野剛くんが僕は岐阜なので、岐阜のCINEXさんの名前を呼びたいですと言って、この映画館の名前を呼んでいます。僕は剛くんが呼んだその時に、岐阜にはCINEXという映画館があるんだなと遅ればせながら認識をさせてもらって、そこからいつか伺いたいなとずっと思っていました。今回2つの作品を持ってこちらに来られたのは本当に嬉しいです。思っていた以上にクラシカルで、また言ってしまうんですが、僕がとっても好きなこの照明。皆さんにとってはきっと見慣れたいつもの景色なのかもしれないですが、他の映画館にはなかなかないんです。僕は結構全国のミニシアターに作品と共に行っていますが、ミニシアターでこの大きさというのもなかなかないですし、こうやって装飾を頑張っているところもなかなかないです。『青春ジャック』と『東京カウボーイ』だけではなくて、素敵な映画はまだまだ他にもたくさんありますし、ぜひ皆さんたくさん映画を観にきてください。 そうすればこの映画館が続きます。映画館が続く限り、僕は映画とともにまたこちらに伺いたいと思います。その時もまた皆さんぜひいらしてください。今日はどうもありがとうございました」

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