岐阜新聞 映画部

クロストーク

『喜劇 愛妻物語』濱田岳さん、水川あさみさんインタビュー

現在公開中の映画『喜劇 愛妻物語』で夫婦を演じた濱田岳さんと水川あさみのインタビューが実現!素敵な喜劇に仕上がった作品について、たくさんのお話を伺いました。

 

―いろんな夫婦の形がありますが、この作品に出てくる夫婦の印象をどのように捉えましたか?また、役作りをする上でどのようにアプローチされたのでしょうか?

濱田:最初の印象として、ある夫婦の物語として台本を読んだ時には、かなりパンチのある夫婦だなと思いました。ただ、水川さんと日々夫婦を演じていく上で変化したのは、決して不幸な二人ではないというか。これだけ毎日喧嘩を繰り返していても、次の瞬間に離婚届を出しに行くような夫婦には思えないし、こういう夫婦が不幸と決めつけるのはちょっと違う価値観だなと。この二人にしか分からない夫婦というのが成立しているな気がしました。役作りとしては、豪太は誰が見てもダメな男なので、まず僕自身が豪太のことを好きになってあげなきゃいけないと思って、豪太のいいと思えるところ、素敵だなと思えるところを見つけていきました。日常に埋もれてしまっていたけど、掘り返していくとやっぱりチカちゃんのことが好きなんだろうなっていう部分を見つけることができましたし、起きてから寝る直前まで怒鳴られ、なじられていても生きていくその図太さ。これは人として豪太の魅力のひとつだなと思って、そういうところから豪太を好きになっていって撮影に臨みました。

水川:足立監督とご夫妻がモデルになっていることもありますし、実録的な部分やフィクションの部分もあるんですけど、これを映画にしようとする監督の覚悟・心意気が凄いなという印象はありました。豪太役は誰なんだろうと思っていたら、岳君がやるということだったので、もう私はドンとぶつかって思う存分罵声を浴びせれば、きっとヘラヘラしてくれるんだろうなと思って、安心して撮影に臨みました。

 

ー豪太のモデルでもある足立監督が一番身近な手本になると思いますが、監督のしぐさで手本にしたことはありますか?

濱田:水川さんもそうでしたけど、一番最初に読みあわせをした時に、足立監督から「僕ら夫婦をなぞるということではなく、別のストーリーのキャラクターとして演じて欲しい」と言われたので、それは別物として捉えました。ただ、ト書きに「ニヤニヤする、ヘラヘラする」と書かれているんですが、なぜこの状況でこの男はニヤニヤヘラヘラできるんだ?っていう疑問はあったんです。その時に監督がモニター横でニヤニヤヘラヘラしていたりとか、演出について聞きに行った時もなぜか知らないけどヘラヘラしていて、「なんで笑っているんだろう?」っていう瞬間があったりして(笑)。監督と毎日過ごして日常のしぐさを見られたことは、豪太を演じる上で助かったなと思います。監督のニヤニヤヘラヘラはすごく参考にしました。

ーチカのマシンガントークがすごかったんですが、ポイントにしたことは?

水川:ひたすら怒っているし、暴言を吐いている、基本的にすごくエネルギー値の高い人。ずっと燃えているというか。だから、自分がバテないようにしなきゃと思っていました。あふれ出てくる罵声の辻褄が合っていなかったりして、すごく感情的なんですよね。女性特有かもしれないんですが、昔の話を出してきたりとか。マシンガントークが止まらなくなるので、とにかくセリフを噛まないように心がけていました。暴言を浴びせるだけ浴びせても、豪太がすり抜けてくるので、余計にイラつくという悪循環でした(笑)。

 

ー豪太のモデルは監督ご自身なので直接監督に聞けたと思いますが、チカのモデルの奥様について監督からどのような女性と説明されたんでしょうか。奥様から直接もしくは間接的に聞けたことはありますか?

水川:監督と一番最初にお会いした時に「僕や奥さんを演じて欲しいわけではない。脚本の中にいる豪太とチカであって欲しい。」と言われました。脚本についても、監督と奥様が実際に掛け合いをして作っているので、狂いのない、緻密にできた素晴らしい脚本なので、それを信頼してやっていきました。自宅のシーンは実際に足立家で撮影させてもらって、その時に奥様と初めてお会いできました。実際に何か言われたことはなかったんですが、お互いがお互いの悪口をこっそりみんなに言っている、みたいなことはありました(笑)。豪太とチカという夫婦の片鱗が撮影中のいろんなところで垣間見えましたね。

ーこの作品は足立監督がどん底の頃だった話だと思いますが、仕事でもがいている部分とチカとセックスしたいという思いが並行して走っている中で、気持ちの比重がどういう風だったか、訊ねたりしましたか。

濱田:足立監督はご夫婦のいろんな経験談をお話してくださるんですが、決して後ろ向きなことを言う人ではないんです。苦労しただろうなと思うことも前向きに面白おかしくお話してくださるので、「昔の苦労話を聞いた」という感じは全然ないです。そんな前向きな人が執筆した脚本だからこそ、豪太というキャラクターが生まれたのではないかと思いました。妻とイチャイチャしたいというのも冒頭のナレーションから明け透けに話しているので、並行しているというよりはひとつ抜きんでている感じですかね(笑)。チカちゃんに朝から晩まで叱られているから仕事をどうにかしよう、チカちゃんにモテたいから働こうという感じがしますね。

 

ー今年はコロナ禍という特殊な状況になりましたが、この時期にこの映画が公開されることに対してのお気持ちは?

濱田:みんながお家の中で我慢する時期があって、今までの日常でなかなか無いストレスを感じていたと思います。僕らが演じた夫婦に似た環境にいらっしゃった方もいると思うので、その分、共感していただける方が増えているんじゃないのかな。僕らのことをより笑ってくれる人が増えたのではないかと前向きに考えています。そして、コロナ禍で映画館に足を運ぶのが怖いと思われている方もいると思いますが、僕ら夫婦のドタバタを指さして大いに笑っていただいて結構な映画なので、映画を観る第一歩にはもってこいの映画だと思います。

水川:自粛期間に自分たちの生活が制限される中で、映画館に行くという当たり前の楽しみが当たり前にできなくなってしまったわけですよね。私も自粛明けに映画館に行ったんですが、映画館で映画を観るということにグッときました。全く知らない人たちがひとつの場所に集まって、みんなでひとつの映画を観て、共感や感動したりするというすごい空間なのに、そのことを忘れていたんだと思いました。コロナ禍の前に当たり前にやっていた、何でもないことがすごく大切だということに気付いたり、自分にとってどういう価値のあるものだったのかと向き合った時間でした。この映画を映画館で上映できるということは嬉しいです。「沢山の人に観て欲しいです」となかなか言えないこの状況はすごく辛いですが、映画館に縁があって観に来てくださった方には思う存分笑っていただいて、楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。

ー脚本家でもある足立監督ならではの演出や、記憶に残る面白いエピソードがあれば教えてください。

濱田:僕の中で一番衝撃的だった足立監督のディレクションは、家族がバラバラになるかもしれないという長回しのシーンで、ト書きに「泣く豪太」と書いてあったんですが、それまでのプロセスを知って臨みたかったので、この涙の意味を監督に聞きに行ったんです。そうしたら「この危機的状況をうやむやにして、丸め込もうとしています」と監督から返ってきて言葉を失いました(笑)。なので、撮影中のチカちゃんの言葉や表情を思い出して、あのシーンに臨みました。あんまり監督のディレクションは役に立たなかったです(笑)。でも、うやむやにしようとしているというのが豪太らしくて、自分で脚本を書いた監督でないと説明できない強力なワードだなと思いましたね。

水川:ひとつハッとしたことがありましたね。チカがホテルの裏から忍び込んで、寝ている豪太達の部屋に入っていってすごい勢いで怒るシーンがあるんですが、テンションMAXの状態で怒って、服を脱いで一人でお風呂に浸かるんです。そのシーンではとてつもなく怒っていたので、豪太への「ビール取って」というセリフも、そのままの怒ったテンションで言っていたんです。そうしたら監督が来て「ビール取って」は怒らないでくださいと。何言ってるんだろう?と思ったんですけど、夫婦の日常ってこういうことだなと思って。豪太とチカもそうですけど、さんざん喧嘩したり、言い合ったりしても次の瞬間には一緒に食卓も囲むし、一緒の寝室で寝たり、同じ家の中で暮らすわけなので、お風呂に入って少し環境が変わったことで「ビール取って」を優しく言うことはできる。芝居ではない日常に近いところの感覚のヒントをもらったような感じがしました。

 

ー殺伐とした夫婦関係の中で娘のアキの存在がすごく効いていたと思うんですが、撮影現場では良い親子関係をどんな風に築いていったんでしょうか。

濱田:新津ちせちゃんは色々な現場を経験されているし、子役ではなくひとりの俳優さんです。彼女が水川さん、濱田さんと呼ぶのは容易いはずなんですけど、撮影中はどんな時もママ、パパと呼んでくれて。カットがかかっても僕らは家族でいるんだという家族感を生み出してくれたのは何よりもちせちゃんの力だと思います。そして、この夫婦のやりとりに挟まれているアキという少女をちせちゃんなりに理解してあそこに立ってくれたおかげで、喜劇になったなと思います。もし、アキが不幸な表情をしていたら、不快に思う方も多かったと思いますけど、この夫婦の間でちゃんと育っている娘をちせちゃんが演じてくれたおかげで、僕らのやりとりを笑えるものにしてもらえたかなと思います。

ー夫婦の生活感を出す上で、ご自身から監督に提案されたことはありましたか?

水川:最後の川沿いのシーンで、本当に夫婦の危機じゃないかというシーンが出てきますが、その前にチカが無言でずっと歩いていて、豪太が近寄ってきたら「触らないで」と言うんですが、このセリフがいつものように「罵声で」とト書きに書いてあって、監督としてはきっとそういうテンションだったと思うんです。でも、自分の中で頑張っていた部分だとか、色々なものがガタガタと崩れ落ちそうな状況の中であのシーンに行き着くので、いつもとは違うことを豪太に分かるようなテンションにした方がいいんじゃないかと提案しました。監督も「それでやってみましょう」と。

 

ー演じた役に対して共感できるところはありましたか。

濱田:演じていて体感したんですけど、豪太は朝から晩まで怒鳴られ続けてもよく平気でいられるなと思って台本を読んでいたんですけど、撮影では水川さんと「おはようございます」と挨拶して帰るまで僕も怒鳴られ続けているんですね。もしハートの弱い俳優だったら部屋から出てこられないような日々だったと思うんですけど、何か僕は意外と豪太と図太さがシンクロしていたらしく、「昨日の「死ね」よりブラッシュアップされたいい「死ね」だな、今日は」とか、色々冷静に受け取れるようになってきました(笑)。その図太さが幸か不幸かシンクロしてしまったので、チカちゃんを怒らせたり、水川さんを苛立たせることに結果なってしまいました(笑)。

ー監督が続編も作っていけたらとおっしゃっていましたが、続編のオファーが来たら受けますか?もし引き受けた場合、夫婦でこんなことがしたいとか挑戦してみたいことがありますか?

水川:そんな夢のような話があるなら是非やりたいなと思いますし、監督自身の面白いエピソードはすごく沢山ご夫婦で持っているので、いくらでもネタがあるとおっしゃっていました。いろんなストーリーが作れると思うんですね。ロケ中にみんなでご飯を食べる機会があった時もいろんな話を伺うことができたので、あんな話もこんな話もできたらいいなと思います。

濱田:夫婦漫才は外せないですよね。

水川:夫婦漫才をするという話があって。これは絶対やってみたいと思います。

濱田:僕としても「水川あさみ、濱田岳 不仲で続編不可能』となるくらい、続けて行きたいと思います!

 

ーチカには鬼嫁のような一面と、豪太を見守る聖母のような一面がありましたが、チカの豪太に対する気持ちはどのように理解していましたか?

水川:きっと出会った時から変わってないと思うんですよね。彼の脚本の才能とか、自分が持っていない部分を持っていることに対する尊敬とか。そこだけを頑張ってくれれば、それ以外はどうでもいいけど、そこを頑張らないから腹が立つんですよね。何十年も一緒にいる夫婦の日常の中で、いろんなものがねじれていって、一番大切にしていたものが心の奥の方に隠れてしまっている状況なんですけど、根本的にはそこがすごく重要だと思ってますし、そこを信じているからこそ一花咲かせてあげたいと思っているんだと思いますね。

ー今回ロケ地が香川でしたが、ロケ地や食事で記憶に残ったことがあれば教えてください。

水川:役作りで太らなきゃいけなかったんですけど、体質のこともあってなかなか太れなかったんです。そんな状況で香川に入って、美味しいおうどんを食べていたらいい感じに太ってきて、一石二鳥でした(笑)ロケ地だと、展望台ですね。あと、夏帆ちゃんと飲んでるシーンは小豆島だったんですが、海がとてもキレイで印象的でした。

 

ー昨年の東京国際映画祭でも上映されましたが、観た方からの評判を聞いてどんな風に思われていますか?

濱田:素直にお客様の反応が観られたのは僕らも東京国際映画祭の時でした。この映画が六本木ヒルズのスクリーン7で上映されるなんて思ってなかったんです。

水川:一番大きいスクリーンだったんです。

濱田:そうそう。貧乏ったらしい僕らの映画がかかるなんて思っていなかったので(笑)、一生の記録と思って暗くなってから客席で観させていただいていたんですね。もう本当に外国の映画館で観ているみたいな反応で、お客様が声を出して笑ってくれるっていう日本の映画館では体験できない反応があったので、とっても嬉しかったです。国際映画祭とは言え、日本の方が多い中で慎ましい感じで観るのがマナーである日本人が、声を出して笑ってくれるというのは涙が出そうになるくらい嬉しい出来事でした。素直にこれを手応えと呼んでいいと思える素敵な出来事でもあったと思います。タイトルに「喜劇」とありますが、どなたが観ても笑えるものが喜劇だと思うんですね。題名に喜劇と銘打っている以上、付き合っているカップルでも独身の男性でも、どなたにも笑える瞬間があると思います。それは、「喜劇」と銘打った僕らの自信でもあります。2軒、3軒先のご夫婦を覗き見する感覚で、大いに指を指して笑っていただいていいと思います。笑ってもらって素敵なご夫婦になるための踏み台になれば。反面教師でこいつらみたいにならないぞと思っていただいていいですし、とにかくあの夫婦を笑ってあげてください。そうすればあの2人は凄く昇華されます。自信を持ってどなたにも楽しんでいただける作品です。

 

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