岐阜新聞 映画部

クロストーク

『ダンスウィズミー』矢口史靖監督インタビュー

8月16日(金)から絶賛公開中の映画『ダンスウィズミー』、皆さんもうご覧になりましたか?『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』など数々の話題作を生み出してきた矢口史靖監督が、次に挑んだのがミュージカル映画!矢口監督のミュージカルに対する思いや、撮影でのエピソードなどを伺いました。

 

 

―矢口監督の作品は常にオリジナリティに溢れていて、毎回楽しみにしています。矢口監督は古き良き映画ファンが素朴に好きな素材を、日本映画の中でレアにやられている方だと思ってまして、「ついにミュージカルをやってくれましたか」っていう感じなんですが、今回ミュージカル映画を撮ってみようと思ったきっかけはなんだったんですか?

矢口:ついに手を出したか!っていう感じですかね(笑)期待を込めて言ってもらえるのは嬉しいんですけど、本当のことを言うと、すごくハラハラしてました。外国から来たものはフィクションの要素もある程度あるので、言葉も違うし歌も違うし景色も違う訳で、日本人が日本の景色の中で、しかも日本語の歌を歌うっていうのは、お客さんにしてみると「ちょっと待てよと、恥ずかしいじゃないか」ってなる可能性が非常に高いので、それを分かっていながらやるのかっていう決心が必要だったんですよね。でも、「これだったらどう考えてもミュージカルじゃないと描けないでしょ」っていうアイデアが浮かべば、「やるぞ!」っていう決心がつくと考えてきたので、それで時間が掛かっちゃったというのはあります。

『スウィングガールズ』の時に一度やろうとしたんですが、滑走路まで行ったんですけど離陸し損ねまして。プロデューサーに「手間かかるし、ものすごく大変だから、やんない方がいいよ」って止められて。ワンシーンだけやろうとしても、ガールズの演奏とお芝居の同時進行は絶対無理だと。今となっては止めてもらって良かったと思ってますけどね。

 

―そういう意味では『ダンスウィズミー』はしっかり準備できたと?

矢口:そうですね。主演を選ぶ、ダンスと歌をちゃんと仕込む、っていうことは製作が決まってから始まる話なので、前段階のシナリオを書く時に「ミュージカルでしか描けない物語って何なんだろう」と。そこを思い浮かぶまでに時間が掛かったんですね。最終的には、催眠術というかなり特殊なスイッチがひとつ入ることで、ミュージカルをしたくないのにしてしまうという、今までのミュージカル映画を足元から掬うくらい勢いのある、視点を変えたミュージカル映画が作れるのかなというので決心がつきました。

 

―催眠術というもの、すごく面白いアイデアだなと思いました。オフィスでの大ミュージカルシーンでも、本当に密にダンスシーンを撮っているのがものすごく伝わってきて、嬉しかったです。

矢口:僕自身、ミュージカルを小さい頃からずっと見てきて、好きな時もあれば嫌いな時もあって、ずっとブレ続けてきたんですね。「ちょっと待って、恥ずかしい」って思っちゃった時もあったんです。それは、芝居部分とミュージカル部分が上手く繋がっていれば大丈夫なんですけど、そうじゃないと「急に立ったりするのは変だよな」とか思ってシラケちゃう。それがおかしいっていうことを言わないできた歴史がある訳ですよ。「ツッコミ厳禁だ」っていうのが暗黙のルールになってましたけど、『ダンスウィズミー』ではもうツッコもうと。ミュージカルが苦手な人も楽しめるし、ミュージカルが大好きな人が見ても「ここまでやってれば日本のミュージカルとして合格点だ、楽しい!」って思ってもらえるものにちゃんと作りたかった。

僕はミュージカルのことが大好きなんですよ。ただ、少し歪んだ愛情だったっていうだけで(笑)ですけど、結果的には好きな人にも嫌いな人にもちゃんと伝わるものにしたいなと思ったので、ミュージカルシーンは特に頑張って作りました。

 

―その辺はものすごく伝わってきて、レストランでのミュージカルシーンでも思い切ってやられている感じがしました。

矢口:ダンスをする三吉彩花さんは大変だったと思います。歌とダンスだけやればいいわけじゃなくて、テーブルクロスの練習とか、シャンデリアにぶら下がるとか、スタント的なこともやらなきゃいけないので、練習が大変だったと思います。

 

―ミュージカルが好きな時と嫌いな時があったというのは何がきっかけだったんですか。

矢口:時期というよりは作品ごとです。作品によってミュージカルはダメなんじゃないかと思ったり、やっぱりスゴイと思ったり、そういう繰り返しです。結構細かい振幅です。

 

―ミュージカルが苦手な人に向けて意識したことは?

矢口:現実のお芝居のシーンとミュージカルシーンとのつなぎ目、“軟骨”の部分ですね。特にこの映画は、何がきっかけで歌い、踊り出すのかっていう理由がはっきりしているので、そこにリアリティというか導入を上手くやらないとお客さんが着いてこれないと思ったんです。オフィスのシーンは特に顕著ですけど、音楽が鳴り始めると、本当は聞きたくないからちゃんと耳を押さえる。そこに手ブレを含めたトラックアップ(※)をして、鳥肌が立つ。立ち上がって歌い出すんだけど、抗いながら歌うような表情をする…。今までのミュージカルってそれが無くて、いきなり歌い出すんですよね。ノレる人、ノレない人が分かれちゃう。つなぎの所でちゃんと手を引っ張ってあげるという演出が必要だと思いました。

(※)トラックアップ…カメラが被写体に向かって近づき、次第に対象を大写しにしていく移動撮影法。⇔トラックバック

 

―矢口監督の中で好きなミュージカル映画で何か参考にされたものとか、この監督のタッチが好きだとか影響を受けたものは?

矢口:やっぱり小さい頃に観た『ウエスト・サイド物語』とか『サウンド・オブ・ミュージック』。ロケーションの中でミュージカルをする、思いっきり外でやるものが好きですね。スタジオに入っちゃうと、やってもいい場所でやってるってことで安心して見れちゃうんですよ。『雨に唄えば』だったら、元々踊り子と映画スター、その人たちがスタジオで歌ってるのは当たり前のことなんで。そうじゃなくて、普通の生活をしている人が普通の景色の中で、やっちゃいけない場所でやっちゃう方が違和感プラス面白いだろうと。「現実を無理やりこじ開けて映画にしてしまうことの面白さ」ですね。なので、『ダンスウィズミー』もスタジオは使わず、全部ロケで撮ってます。

 

―昔の日本映画なんかでも、かつてクレイジー・キャッツさんがオフィスの中で踊ったりしてましたよね。

矢口:クレイジーキャッツも大好きなんですけど、ただよーく見るとちょっと陽気なおじさん程度に見えるんですよ。そこまで歌ったらちょっと変な人だよな、でも、捕まりはしない程度の。どちらかというと、クレイジーキャッツよりも『君も出世ができる』くらいだと、やっぱりすごいなと思います。羽田空港のシーンとか、やっちゃいけないことをすごい勢いでやってる。だから、日本映画もかつては本当にチャレンジングなことをしてたんですが、ある時期からミュージカルが減ってきて、最近だと3年に1本くらいかな、ミュージカルだっていうことを大宣伝しないで公開しますよね。

 

―今回、正面切って日本映画の純性ミュージカルだっていう感じは、ファンにとってはワクワクしますよね。あと、今回は三吉さん演じる主人公がすごく素敵でカギを握ってると思いますが、三吉さんに選んだポイントは何だったんですか?

矢口:彼女の良さは、歌とダンスをする時の表情と、お芝居をする時のリアルな表情にものすごく差があったことですね。歌とダンスは華やかに笑顔満点でやって欲しいんですね。それはできても、普通の芝居をしてって言う時に華やかさが抜けない人たちの方が多かったんです。たぶん、舞台をやってたせいだと思うんですけど。でも、この主人公って歌ったり踊ったりした後、後悔の念に苛まれるといいますか。「やっちゃいけない事しちゃった」っていう表情をしなきゃいけない。で、また日常生活に戻っていく。このギャップが激しいほど面白いんですよね。それができた人って本当に少なくて、三吉さんは両方持ってたんです。とてもリアリスティックなお芝居から突然変わるというところが良かったです。

 

―あと、宝田明さんが往年のファンからするとすごくキーマンで、催眠術師とか詐欺師っぽいイメージがすごいハマってるなと思いましたけど、イメージ通りの配役?

矢口:いや、宝田さんに関わらず、台本書く時は誰もイメージせずに書きますね。脚本が出来上がって、キャスティングの段階になって初めてマーチン上田を誰にするかって聞かれたんで、「宝田明さんとか無理ですかね?」っていう話をしました。宝田さんのミュージカルものって全然見てないんですよ。『ゴジラ』とかは見て、その後かなりすっ飛ばして、ディズニーアニメの『アラジン』で、ジャファーっていう悪役を宝田さんが吹き替えてるの聞いて、それが非常に印象が良くてですね。どっかインチキくさくて、大人のくせに子どもみたいに悔しがったり、それがマーチン上田に近いなと。

 

―やしろ優さんとかchayさんも、歌も踊りもっていうイメージは無かったです。

矢口:やしろ優さんもオーディションで女優さんがたくさんいる中にポンッと1人いたんですけど、一番良かったんですよ。やしろさんの一番の良さはカメラの前にいようが、普段通りにできるところです。本番だろうがテストだろうが、休憩時間もずっと同じテンションでいられるところがすごく良くて、役柄とも近かったんでお願いしました。ただ、撮影中に困ったことが2回起きまして、生たまねぎをむしゃむしゃ食べるシーンは、そのままだと食べれないんですよ。彼女は女優じゃないんで、全然違うことをしろって言っても難しい。だから、撮影現場に本物の催眠術師を呼んで、実際に掛けてもらって、催眠状態で本番を撮りました。だから、あれは本当に甘いと思い込んで食べてるんです。

 

―でも、そうじゃないとあれ、なかなかできないですよね(笑)

矢口:樹木希林さんならやれるかもしれませんね(笑)でも、女優さんじゃない人にやらせなきゃいけなかったんで、そういうちょっとした小技を使いました(笑)

 

―そのために催眠術師さんを呼んでたんですか?

矢口:十文字幻斎さんっていう催眠術師の方なんですけど、映画のシナリオを書く時に取材をずっとしてたんですよ。あと、マーチン上田がちょっとしたマジックを見せるんですけど、その指導もやってもらったんですね。で、「現場来てくれませんか?」ってお願いして、やしろ優さん催眠術を掛けてもらったんです。

 

―たまねぎは2回かじってますよね?

矢口:2回来てもらいました(笑)だから、彼女にとってはお芝居をしているって言うよりはドキュメンタリーですよね。本当に甘かったから「甘い!甘い!」って言ってるという(笑)

 

―chayさんなんかは思いっきりのいいキャラで、強烈な印象がありました。

矢口:chayさんもオーディションに来てもらったんですが、基本的には歌を聴きたくて来てもらったんです。お芝居は、結婚式場以外のシーンをやってもらいました。結婚式場のシーンは多分、オーディションでやりきっちゃうと本番の時にエネルギーが出せなくなる可能性があるので、芝居じゃなくてリサーチをしました。「ずっと心に残ってる怒りの炎みたいな、わだかまりの残る事件ってありますか?」って聞いたら「もちろんですよ」って(笑)あっ、これはイケるなと思って、「本番の時までそのエネルギーを取っといてください。忘れずに、逐一全部思い出して、怒りを温存しといてください」ってお願いして、ああいう形に(笑)

 

―よく映画で結婚式を破壊するシーンってあると思うんですけど、今回のシーンは『人生スイッチ』っていう映画に匹敵するくらいのパワーを感じました。

矢口:私も『人生スイッチ』は観ました。あと、日本映画で『嘘八百』で新郎のもとに彼女が包丁持って殴り込みに行くっていう、全く同じなんですけど(笑)でも、やはり歌のおかげは大きいです。「ウエディング・ベル」っていう曲は僕が小さい頃というか、小中学生くらいに聞いたんですかね。あの歌聞いた時に、恐ろしいなと。映像化するならこういう形だろうっていうイメージがあったので、夢が叶いました。

 

―オードリー・ヘプバーンやジュリー・アンドリュースみたいなメリハリが主人公にあって、かつての日本映画には無いエッジの効いたミュージカル映画になってると思ったので、日本映画の中でも今までとは違うミュージカル映画として位置づけられるんだろうと思って期待しております。ありがとうございました!

 

 

映画『ダンスウィズミー』はTOHOシネマズ岐阜、大垣コロナシネマワールド、イオンシネマ各務原、関シネックス マーゴ、TOHOシネマズ岐阜 ほか全国で絶賛公開中!

公式サイトはコチラ→ http://wwws.warnerbros.co.jp/dancewithme/

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