岐阜新聞 映画部

クロストーク

『兄消える』柳澤愼一さんインタビュー

 

長野県上田市を舞台に、40年ぶりに再会した兄弟を描いた映画『兄消える』で主演を務めた俳優の柳澤愼一さん。40年前に家を飛び出し、突然、一人の女性を連れてふらりと戻ってきた兄・金之助を演じました。映画での主演は実に60年ぶり。「最後まで人間を描いた人間ドラマ。ぜひ見てほしい」と話す柳澤さん。“遺作”として挑んだという本作への思いを聞きました。

 

 

―町工場を続けていた76歳の真面目な弟・鉄男と、80歳で奔放な性格の兄・金之助。対照的な兄弟を中心に物語が進みます。シニア世代の青春や切なさを描いた人間賛歌ですね。

柳澤:この映画は人間ドラマ。見る人が歩んできた人生、思いによって捉え方が違うのではないか。過去を振り返って、あの時方向転換すれば良かったと思う人、俺は間違っていなかったと思う人。それぞれの思いで見どころを感じ取ってもらえれば。ぜひ、若い人たちにも見てもらいたい。年を取るのも悪いことではないなと。

 

―金之助を演じるため、普段の生活で使っているつえを持たずに撮影に臨んだと聞きました。

柳澤:ちゃらんぽらんな性格の金之助を演じるには、体の線の柔らかさが必要だった。でも、つえをついた姿を鏡で見たらしゃんとしていて、金之助につえは使えないと言った。出演の話を頂いた時は86歳。台本をきちんと覚えて、それを表現できるだろうか。あるいはプロデューサーの狙い、監督の演出、俳優としての真剣勝負、そういった神経に耐えられるだろうかと、最初は断ろうと考えた。でも、関係者のご苦労も思い、高齢というだけで断っていいのかと考えが変わっていった。

 

―W主演を務めた高橋長英さんをはじめ、ベテラン俳優が多く出演しています。

柳澤:高橋さんは、第50回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している俳優。まちの住民役も文学座のベテラン俳優で固められ、芝居が非常に締まった。だからこそ、金之助のちゃらんぽらんな役が引き立つことができたのではないか。

 

―兄弟けんかをするシーンが印象的でした。

柳澤:よく映画『八月の鯨』と比較されるが、そこでこんなせりふがある。「人生の半分はトラブルで、あとの半分はそれを乗り越えるためにある」と。『兄消える』では、つかみかからんばかりの剣幕で激高する鉄男に、金之助がこう言う。「全部ってことはないだろうけど、まぁ人生なんて、もともと無駄なことはないんだから、な?」。あのせりふに尽きると思う。つらいことも含めて人生には全て意味がある。この言葉に救われた人がいてくれるとうれしい。

 

―24日(土)から岐阜市で上映が始まります。メッセージをお願いします。

柳澤:わびしいニュアンスのタイトルだが、この映画の中に人生訓が潜んでいることは、映画を見てもらわないと分からない。食べ物で例えれば、その店の売りのメニューは、食べていない人にとっては売りでも何でもない。食べ物は食べてから。となれば、映画は見てから。ぜひ自分の目で見てほしい。

 

映画『兄消える』は8月24日(土)から9月6日(金)まで岐阜CINEXにて上映予定。初日24日(土)12時30分~の回上映後には、柳澤愼一さん、新田博邦プロデューサーによるトークショーが開催されます。

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