岐阜新聞 映画部

クロストーク

『シンプル・ギフト はじまりの歌声』篠田伸二監督インタビュー

エイズで親を失くしたアフリカの子どもたちと東日本大震災で家族を失った子どもたちが、米国ブロードウェイの舞台に挑戦する実話を追ったドキュメンタリー映画『シンプル・ギフト はじまりの歌声』。悲しみを乗り越え、一歩ずつ成長していく子どもたちの姿を、生き生きと表現している。本作で初監督を務めた篠田伸二監督がインタビューに応じ、作品に込めた思いを語った。

 

ーこの映画を撮るに至った経緯は。

篠田:国内外の遺児を支援する「あしなが育英会」の創始者・玉井義臣さんは、アフリカ・ウガンダで私設学校を運営しています。サハラ砂漠以南の49ヵ国は「サブサハラ」と呼ばれる世界最貧地域。貧困は教育の欠如から生まれ、小説「あしながおじさん」の誕生100年に合わせて何かできないか考えていました。ブロードウェイの舞台は、世界中から教育支援を得るためにアピールする手段だったのです。

 そんな時、2011年3月11日に東日本大震災が起きました。玉井さんは、「レ・ミゼラブル」などの舞台で知られる世界的な舞台演出家ジョン・ケアードさんと舞台「あしながおじさん」が縁で出会い、ウガンダの子どもたちと東北の子どもたちをブロードウェイに導いて欲しいと頼み、プロジェクトがスタートしました。

 

ー撮影を通じて感じたことは。

篠田:撮影は4年間に及びましたが、子どもたちの成長をどこで感じていたかというと、それは言葉です。撮影当初、子どもたちは、自分の思いすら言葉にできませんでした。それが、成長の過程で言葉を獲得し、思いを表現できるようになっていました。

 あるウガンダの子どもは、初めて日本に来て、街の美しさに衝撃を受けていました。そして、「将来、リーダーになって自分の町をきれいにするプロジェクトに関わりたいと」と。すごく貧しい日々の暮らしの中で、教育を受けることで希望を獲得していったように感じます。

ー篠田監督にとって初監督作品となった。

篠田:玉井さんは、「支援につなげる前に関心を持ってもらわないといけない」と言われていました。それが映像の役割だと感じます。関心のタッチポイントになれるかが、当初からの目標でした。

 もともとテレビでドキュメンタリー番組を制作していましたが、映画とは全く違います。テレビは、映像の中に情報を詰め込み、作りさえすれば放送されます。しかし映画は、どんな作品でも販路がなくては観客にメッセージすら伝えることはできません。

 

ー子供たちの成長を丹念に描き、密度の濃い映画だった。

篠田:映画は90分。情緒的な部分は伝えられたが、細かい部分を伝えきれていません。だから、劇場に来る人全員にパンフレットを配るようにしています。それを読んでいただき、子どもたちの背景やプロジェクトの目指すところを少しでも理解してもらえたらという思いです。

 

ー篠田監督のご両親は郡上市出身、妻で女優の紺野美沙子さんは県図書館名誉館長と、岐阜県に縁がある。30日からの岐阜市での上映に向けてメッセージを。

篠田:「シンプル・ギフト」という言葉は、日本人にあまり耳慣れない言葉です。しかし、映画の心棒のようなものを見つけないといけないと考え、戻ってきたのがこの言葉でした。

 東北の被災者の方が異口同音に口をそろえ、家族との当たり前の日常が本当に尊いものだったとおっしゃっていました。ウガンダの子どもの保護者たちも同じようなことを言っていました。今、日本では衣食住が足りているのにもかかわらず、幸福感を感じられずにいる人たちがいます。それを打開するためのヒントになるのではないでしょうか。

 映画の中で「自分の居場所を見つけること、それが天からの贈り物」という言葉があります。自分にとっての幸せとは何か、自分にとってのシンプル・ギフトとは何かを考えてもらえればと思います。

 

映画『シンプル・ギフト はじまりの歌声』は3/30(土)~4/12(金)の2週間、岐阜CINEXにて上映予定。30日(土)12時30分~の回上映後には篠田伸二監督、ナレーションを務めた紺野美沙子さんによるトークショーが開催される。当日は20歳以上の来場者には、協賛社のキリンビールから新ジャンル「本麒麟」が配られる。イベントの詳細、webからのチケットの購入はコチラ

ページトップへ戻る