岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

是枝裕和初監督作品が能登輪島支援でよみがえる

2024年09月20日

幻の光

© 1995 TV MAN UNION

【出演】江角マキコ、浅野忠信、柏山剛毅、渡辺奈臣、吉野紗香、木内みどり、大杉漣、桜むつ子、赤井英和、市田ひろみ、寺田農、内藤剛志、柄本明
【監督】是枝裕和

無駄のない意味のある長回しには意志という緊張感が宿る

少女の記憶

家を出て、生まれ故郷へ帰ると言い張る祖母を追うが、とめられるはずもなく、その後姿を見送る…それきり、祖母は行方不明になってしまう。

時は過ぎ、少女=ゆみ子(江角マキコ)は結婚し、注文服の仕立て屋をする家の棟続きの2階にあるアパートの一室に居を構えている。夫の郁夫(浅野忠信)は町工場に勤めているが、ゆみ子は郁夫が働く姿を見るのが好きだった。時には喫茶店のカウンターに並んで座り、珈琲を飲む。そんな仲の良い夫婦に、初めての子ども勇一が生まれる。

ある夜、郁夫は電車に轢かれて死んでしまう。運転士の証言によれば、郁夫は線路の真ん中を歩き、警笛にも反応しなかった…不可解な自死。

大家で仕立て屋の女房・初子の世話で、後妻として嫁ぐことになったゆみ子は、まだ幼い勇一を連れ、能登輪島へ向かう。

原作は芥川賞作家宮本輝の同名小説。宮本輝は1977(昭和52)年に発表したデビュー作「泥の河」で太宰治賞、翌年には「蛍川」で芥川賞を受賞。「道頓堀川」を含めた "川三部作" の後を継ぐのが「幻の光」となる。

監督は、今や日本映画を代表する映画作家・是枝裕和で、ドキュメンタリーやテレビの仕事を経過した後の劇映画デビュー作である。

初公開の1995年暮れから29年、デジタルリマスター版でよみがえった特別上映には、年初に起きた能登半島地震の輪島支援の意志が込められている。

ゆみ子が嫁いだ先は、輪島塗りの器を作る木地師の家で、職人で夫の民雄(内藤剛志)には先妻の子・友子と、父親で姑=舅となる喜大(柄本明)が同居している。

美しい四季の風景。そこで営まれる生活。ゆったりとしたリズムで、時に、おそろしく引いたカメラがとらえた長回しの映像は、静謐さをたたえた一枚の絵画のように見える。

ゆみ子を演じたのはモデル出身で映画初出演だった江角マキコ。脇役にもそつのない贅沢な配役をした奇跡のような初監督作品。久々の再見は新鮮な体験としてよみがえった。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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