岐阜新聞 映画部

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不明だった父の人生を辿る記憶への旅

2024年08月26日

大いなる不在

©2023 CREATPS

【出演】森山未來、真木よう子、原日出子/藤竜也
【監督・脚本・編集】近浦啓

藤竜也VS森山未來 静かに火花散る競演

時間上に漂う、記憶と記録。

ある日、卓のもとに警察から連絡がはいる。

幼い頃、自分と母を捨て、疎遠となっていた父親の陽二が警察沙汰を起こした。その理解も追いつかないまま、卓は妻の夕希とともに、九州にいる父を訪ねる。

そこにいたのは、認知症の進行により、かつて大学教授を勤めていた頃の威厳も消え、別人のように老いた父親だった。そしてもうひとつ、陽二の再婚相手で卓の義母にあたる直美が不在であることがわかる。

直美は何処にいるのか? 陽二に尋ねてみても、一向に、埒が開かない。

陽二と直美が生活を共にしたであろう家は、その痕跡を覆い隠すようなメモ、陽二が書き記した言葉や記憶の記録で埋め尽くされていた。

映画の語口は、現在から過去、回想への移行といった、明快でわかりやすい時間軸の往復ではない。そこに陽二の幻覚ともとれる記憶が絡み、ミステリアスな展開となる。

陽二は、近年、主演作が続き、8月23日で83歳になる藤竜也が演じている。

藤竜也は大学(日大)在学中に、銀座でスカウトされて日活に入社。62年にスクリーンデビューを果たしたが、日活でのキャリアは決して順調とは言えなかった。71年に日活退社後も、東映に移籍したが作品には恵まれなかった。そんな中、73年に始まったテレビドラマ「時間ですよ」(TBS)に出演し、謎の男を演じブレーク。お茶の間で顔を知られることになった。

なんと言っても強く印象に残るのは76年に出演した『愛のコリーダ』(大島渚・監督)の吉蔵役だが、作品のインパクトは藤竜也から役者の仕事を遠ざけるという、皮肉な結果を生んだ。

しかし、2010年代、古希を迎えてからの活躍はめざましいものがある。北野武、黒沢清監督作品から若手監督とも積極的に仕事をこなし、本作の近浦啓監督とも2度目のタッグとなる。

卓が辿る陽二の記憶の断片を拾い集めるその先に、無くした親子の絆の修復はあるのか? 見えない道を行くロードムービーなのかもしれない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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