岐阜新聞 映画部

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豊穣な映画の時代を味わえる松本清張原作の傑作

2024年07月01日

黒い画集 あるサラリーマンの証言

【出演】小林桂樹、原知佐子、江原達怡、中北千枝子、平田昭彦、西村晃、織田政雄、小池朝雄
【監督】堀川弘通

1960年の東京そのものが映されている

ロイヤル劇場で観た『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960)は、松本清張原作の映画化36本中9本目の作品で、キネ旬ベストテンに入った7作品中では『砂の器』(1974)と並ぶ2位にランキングされた傑作である。

監督は、黒澤明の『七人の侍』でチーフ助監督を務めた堀川弘通で、放浪の天才版画家・山下清が主役の『裸の大将』の監督であるが、最も注目したいのは脚本の橋本忍である。

私は元々は本が好きで、中学時代に読んだ「ブンとフン」の井上ひさしと「点と線」の松本清張からスタートした。本作の原作短編集「黒い画集」は傑作で、そのなかの「証言」はひと際優れている。石野(小林桂樹)が自らの不倫を隠蔽するため、殺害推定時刻に「挨拶をした」という隣人のアリバイを「していない」と偽証するのが骨子だが、石野が別の殺人事件で全く同様の疑いをもたれることになる終盤の展開は、橋本忍のオリジナルである。

2024年の「大宅壮一ノンフィクション賞」に選ばれた春日太一著「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」で書かれているように、本作は物語の構成が緻密で、セリフも完璧、時代感覚にも優れている、今の時代にも通用する生きた映画となっている。

春日さんの橋本評のひとつに「腕力で観客をねじ伏せる」という分析があるが、若干強引な展開も、映画となった際の効果を最大限に考えていて納得ができるのだ。これにより原作と映画は、それぞれに傑作となっている。

モノクロームの画面は1960年の東京そのものが映されており、真面目に働けば老後の安泰が保証されていた時代だからこそのミステリーとも言える。

この傑作が、東宝の番線映画(プログラムピクチャー)であることに驚きを禁じ得ない。森繁久彌の『珍品堂主人』と2本立てで、量産体制の中で公開されているのだ。

画面は鮮明、音声はクリア。豊穣な映画の時代を味わえる作品だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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