岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アイヌをユーカラの存在で示した女性の生涯

2024年07月01日

カムイのうた

©シネボイス

【出演】吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也
【監督・脚本】菅原浩志

残された知里幸恵の著作でその片鱗に触れる

日本は単一民族国家という幻想。

例えば、"日本人とは?" という漠然とした問い…考古学的には、縄文という文化があって、そこに縄文人がいた。それを日本人とする。

ところが、歴史の年表のような辿り方をすると、縄文時代は、次第に弥生時代に移行していくが、その移行の仕方が、緩やかな浸透ではなかったりすることが分かって、縄文人と弥生人は違う民族なのか? という議論に変わる。

近年のDNA研究によれば、縄文人と言われる人たちを別に和人と言われてきた人たちとすると、和人とアイヌの人は、共通の祖先を持つことが分かってきている。アイヌは和人によって追われ、次第に、本州から東北、北海道へと逃げた、というのは間違いで、本州を中心に暮らしていた縄文人=和人が、大陸から渡来した人たちと混血することで、弥生人になり、血の交わりの濃淡が東北、その北部、さらに北海道とクラデーションのようになったという説明。

しかし、これにも細部で違和感があって、追われるという言い方を否定したが、対象は不確かだが、いくつもの戦い跡を古代から発見できる。

事実として言えるのは、アイヌは不当な差別を受け続けた独自の民族であるということ。

『カムイのうた』は、冒頭の字幕でも説明されるように、史実に基づいた物語である。

大正6年、北里テルは、高等女学校の入試を明らかな差別で不合格にされ、やむなく、女子職業学校に入学する。しかし、そこにもアイヌ人への理不尽な差別が待ち受けていた。

ある日、アイヌ語の研究者である兼田教授が、テルの祖母イヌイェマツのもとに、アイヌの叙事詩ユーカラの聴き取り調査のためにやって来る。

そして、テルは兼田の勧めで、ユーカラを文字に置き換え日本語に翻訳する仕事を託され上京を決意する。

劇中に祖母が歌うユーカラや、テルが奏でるムックリ(口琴)の静謐な音色に凛とするように、今も生き続けるアイヌ民族の姿を、その差別の歴史的な事実を決して風化させない意思を込めた、力強い映画である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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