岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ボイリング・ポイント/沸騰 B! ワンショットで見せる高級レストランの裏表 2022年08月22日 ボイリング・ポイント/沸騰 © MMXX Ascendant Films Limited 【出演】スティーヴン・グレアム、ヴィネット・ロビンソン、レイ・パンサキ、ジェイソン・フレミング、タズ・スカイラー 【監督・脚本・製作】フィリップ・バランティーニ 挑戦的な工夫にいかにドラマを溶け込ませるか 映画の演出、撮影技法の1つに "長回し" というのがある。ひとつのシーンをその言葉の通り、長い時間撮り続けることで、通常カットによって分断されたシーンが定点の視点となることで、さまざまな効果を生む技法のひとつである。その時、撮影の対象によってはカメラは移動することもあるし、別物になってしまうが、長く設定した同一シーンを複数のカメラで撮影し、それをカットで繋ぐというものもある。概ね、そこには緊張感のようなものが存在するようになる。それは被写体である演技者の芝居の継続から生まれる緊張であったり、それを撮影する技術者の緊張感の共有なのだが、監督によっては、その技法を持ち味としている人もいる。緊張感は観客にも伝わり、共有する時間も発生する場合もあるし、退屈という逆効果になってしまうこともある。 『ボイリング・ポイント 沸騰』は、全編をワンショットの長回しで演出した映画である。 ロンドンにある高級レストランのオーナーシェフのアンディ(スティーブン・グレアム)は、無視できない電話での会話を続けながら店に入る。開店時間間近の店内は、準備に忙しいスタッフたちが動き回る。それをかき分けるようにメインダイニングにたどり着くが、スウシェフをはじめとする部下たちからは遅刻を咎められる。クリスマス前の週末金曜日、店は予約客で満員の沸点に達しているのに、衛生局の検査が入り、執拗なチェックが準備体制もままならないアンディに攻撃のように降りかかってくる。 カメラは当初、アンディを追うかたちで進行するが、店内は客席とキッチンスペースに区切られているし、さらにいくつか部屋が存在するので、ごく自然に被写体の移行がおこなわれ、新たなエピソードが展開する。 発生する問題はアンディに限定されるわけではなく、スタッフの個別ものであったりする。そのひとつひとつがかなり重いこともあり、カメラの素通りによる転換が無常で惜しまれる。 全編ワンショットのサスペンスフルな効果は良しとしても、ドラマを描く意味での必然は些か弱い。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (7)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年04月24日 / ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター 4Kで甦る 憎悪の泥に塗れた官能的な愛の物語 2024年04月24日 / ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター ジェーン・カンピオン監督の最高傑作、完璧な作品 2024年04月24日 / RED SHOES/レッド・シューズ オーストラリア発バレエ舞台の成長物語 more 2017年12月13日 / 十日町シネマパラダイス(新潟県) 震災を乗り越えて街に再び映画の灯を取り戻す 2018年05月16日 / 鶴岡まちなかキネマ(山形県) 晩夏の庄内地方で名作のロケ地と映画館を満喫 2019年01月16日 / 高田世界館(新潟県) 明治44年の建築当時のまま…登録有形文化財の映画館 more
挑戦的な工夫にいかにドラマを溶け込ませるか
映画の演出、撮影技法の1つに "長回し" というのがある。ひとつのシーンをその言葉の通り、長い時間撮り続けることで、通常カットによって分断されたシーンが定点の視点となることで、さまざまな効果を生む技法のひとつである。その時、撮影の対象によってはカメラは移動することもあるし、別物になってしまうが、長く設定した同一シーンを複数のカメラで撮影し、それをカットで繋ぐというものもある。概ね、そこには緊張感のようなものが存在するようになる。それは被写体である演技者の芝居の継続から生まれる緊張であったり、それを撮影する技術者の緊張感の共有なのだが、監督によっては、その技法を持ち味としている人もいる。緊張感は観客にも伝わり、共有する時間も発生する場合もあるし、退屈という逆効果になってしまうこともある。
『ボイリング・ポイント 沸騰』は、全編をワンショットの長回しで演出した映画である。
ロンドンにある高級レストランのオーナーシェフのアンディ(スティーブン・グレアム)は、無視できない電話での会話を続けながら店に入る。開店時間間近の店内は、準備に忙しいスタッフたちが動き回る。それをかき分けるようにメインダイニングにたどり着くが、スウシェフをはじめとする部下たちからは遅刻を咎められる。クリスマス前の週末金曜日、店は予約客で満員の沸点に達しているのに、衛生局の検査が入り、執拗なチェックが準備体制もままならないアンディに攻撃のように降りかかってくる。
カメラは当初、アンディを追うかたちで進行するが、店内は客席とキッチンスペースに区切られているし、さらにいくつか部屋が存在するので、ごく自然に被写体の移行がおこなわれ、新たなエピソードが展開する。
発生する問題はアンディに限定されるわけではなく、スタッフの個別ものであったりする。そのひとつひとつがかなり重いこともあり、カメラの素通りによる転換が無常で惜しまれる。
全編ワンショットのサスペンスフルな効果は良しとしても、ドラマを描く意味での必然は些か弱い。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。