岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

大好きな作品とちょっとした思い出を語りたい

2022年03月30日

宝田明氏の訃報に寄せて

「ゴジラ」以外でも輝いていた東宝のスター

また一人、日本映画黄金期を知る俳優が亡くなった。宝田明氏の訃報に触れて、私の頭の中には数々の映画が駆け抜けていった。ダンディーで都会的な東宝映画を支えた2枚目。その名を聞いて真っ先に浮かぶのは「ゴジラ」シリーズだろうが、それについてはこれまでも今回も多く取り上げられているので、私は「ゴジラ」以外の作品4本に思いを馳せたいと思う。

まず、1本目。彼は多くのミュージカルに出演していた。そんな彼が出演したミュージカル映画が1960年公開の井上梅次監督「嵐を呼ぶ楽団」だ。

本作で彼が演じたのは自分のバンドを持ちたいという野望を持った青年ジャズマン。そして集まるメンバーとの友情、恋愛、そして確執。そんな王道ストーリーをケレン味たっぷりに演出した井上梅次監督の腕が冴える傑作ミュージカル映画だ。ちょっと自信過剰な主人公を爽やかに好演していた。

次は2本目。女性の就職は結婚までの腰掛け、と言われていた時代に自立した働く女性を描いた1962年公開の鈴木英夫監督「その場所に女ありて」

本作では相手を利用する広告マンを演じた。相手を利用しながらも非情になりきれない表情をみせる絶妙な役柄。登場する男性キャラクターが自己中心的であり、その中で自分を貫く司葉子の凛とした美しさが印象的。シビアなストーリーをドライに語る鈴木英夫監督の演出も見事なまさに現代にこそあるべき1本。

3本目、007ブームに乗っかり登場した、ルパン三世をも彷彿とさせる洒脱なアクションコメディ。1965年公開の福田純監督「100発100中」

本作は宝田明氏の魅力が炸裂している。謎の2枚目アンドリュー星野という胡散臭さ漂うキャラクターを演じる。英語混じりに話しながら飄々と立ち回るその姿はまさにピッタリ。美しき殺し屋を演じる浜美枝とおっちょこちょい刑事の有島一郎とのコンビネーションが笑いを誘うとにかく楽しい1本。オシャレが過ぎる福田純の演出も絶好調!

4本目、限定された空間の中で展開するダイヤ強盗の裏切りあいを描いたハードなアクション。1964年公開の福田純監督「血とダイヤモンド」

本作ではかなりの悪党を演じている。涼しい顔をして仲間を裏切り、おいしいところを全部持って行こうとする。自らの手は決して汚さないその冷酷ぶり。クールな2枚目を逆手に取ったキャスティングが見事だ。脇を固めるのも佐藤允や夏木陽介、水野久美や志村喬といったおなじみの面々。シャープで光と影を巧みに用いた福田純の映像も冴えわたる。

他にもこれぞ2枚目なプレイボーイを演じたスクリューボールコメディである1960年公開の「接吻泥棒」(川島雄三監督)やあまりに悲惨な家族の変遷を描いた1961年公開の「二人の息子」(千葉泰樹監督)での薄情な長男役も印象的だ。

実は私、一度だけ宝田明氏にお会いしたことがある。とあるイベントのサイン会にて、中学1年か2年のときだ。その時の彼はユーモアにあふれ、変わらずにダンディーであったことをよく覚えている。一緒に写真を撮り、サインもいただいた。オーラがあり、文字も達筆でまさに昭和のスターという感じだ。“中学生が自分の作品を観てくれて”とおっしゃっていたが今ならばもっと深いお話ができたのにとちょっと悔しい。そんなことを想いながら、彼の訃報を噛みしめている。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

観てみたい

65%
  • 観たい! (11)
  • 検討する (6)

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

ページトップへ戻る