岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品麻希のいる世界 B! キラキラ映画とは全く無縁。あるのは生々しい息遣い 2022年03月07日 麻希のいる世界 © SHIMAFILMS 【出演】新谷ゆづみ、日髙麻鈴、窪塚愛流、鎌田らい樹、八木優希、大橋律、松浦祐也、青山倫子、井浦新 【監督・脚本】塩田明彦 適度な物語の省略は、余白の部分で楽しめる構造 本作の監督である塩田明彦氏の名著に「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(イースト・プレス発行/2014年映画本大賞4位)という本がある。 映画評論家の蓮實重彦氏や山田宏一氏から多くを学んだという塩田氏であるが、映画美学校の講義録であるこの本は、俳優の顔、視線や表情、動線などを切り口に、塩田氏が偏愛する様々な映画のシーンの演出方法を分析し、映画演出の神髄をわかりやすく解説した良作である。 『麻希のいる世界』は上映時間1時間29分。塩田理論による演出は、観客に決して親切ではないけれど、あざとくもなく独り善がりでもない。説明過多の映画が多い中で、セリフ以外の演出や役者の表情や行動によってテーマを浮き上がらせており、適度な物語の省略は、余白の部分で楽しめる構造になっている。 高校2年の青野由希(新谷ゆづみ)は、ほっておくと命に関わる重い病を抱えており、生きることの意味を常に考えて生きてきた。そんな由希の前に、他人を寄せ付けようとしない奔放な生き方の牧野麻希(日髙麻鈴)という同年代の少女が現れる。そしてこの2人を繋ぐのが、軽音楽部の伊波祐介(窪塚愛流)だ。 アイドル出身の若手女優が主演だが、キラキラ映画とは全く無縁。「伏線を回収する」だの「心に刺さる」などの安っぽい感想などは寄せ付けず、共感なども求めてはいない。あるのは「生きている」ことの生々しい息遣いであり、狂おしいほどの欲望なのだ。ココロも身体もギラギラしているのだ。 映画は、"「麻希のいる世界」の中にいる由希"の視点であり、もしかしたら麻希は由希にとっての妄想的存在なのかもしれない。現実に麻希がいることは確かだが、由希の憧れを体現している理想像として、頭の中でデフォルメされているだけかもしれない。 いろんなことを思い描かせてくれるこの映画は、やはり優れた演出による部分が大きいと思う。監督の解説を是非聞きたい。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 93% 観たい! (14)検討する (1) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2024年05月01日 / コットンテール 愛妻の遺言をかなえる旅を描いた英日合作 2024年05月01日 / コットンテール 最愛の人の遺言を叶えるための旅の物語 2024年05月01日 / コットンテール 湖水地方の風景が美しい、父と子との再生の映画 more 2018年05月30日 / 名古屋シネマテーク(愛知県) 作り手も観客も映画と真剣に向き合える映画館 2021年06月23日 / 【思い出の映画館】シアターホームラン(埼玉県) 小江戸・川越で映画の灯を守り続けた老舗劇場 2022年05月11日 / 豊岡劇場(兵庫県) 豊岡で暮らす人たちと作り上げる新しい街づくりの拠点。 more
適度な物語の省略は、余白の部分で楽しめる構造
本作の監督である塩田明彦氏の名著に「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(イースト・プレス発行/2014年映画本大賞4位)という本がある。
映画評論家の蓮實重彦氏や山田宏一氏から多くを学んだという塩田氏であるが、映画美学校の講義録であるこの本は、俳優の顔、視線や表情、動線などを切り口に、塩田氏が偏愛する様々な映画のシーンの演出方法を分析し、映画演出の神髄をわかりやすく解説した良作である。
『麻希のいる世界』は上映時間1時間29分。塩田理論による演出は、観客に決して親切ではないけれど、あざとくもなく独り善がりでもない。説明過多の映画が多い中で、セリフ以外の演出や役者の表情や行動によってテーマを浮き上がらせており、適度な物語の省略は、余白の部分で楽しめる構造になっている。
高校2年の青野由希(新谷ゆづみ)は、ほっておくと命に関わる重い病を抱えており、生きることの意味を常に考えて生きてきた。そんな由希の前に、他人を寄せ付けようとしない奔放な生き方の牧野麻希(日髙麻鈴)という同年代の少女が現れる。そしてこの2人を繋ぐのが、軽音楽部の伊波祐介(窪塚愛流)だ。
アイドル出身の若手女優が主演だが、キラキラ映画とは全く無縁。「伏線を回収する」だの「心に刺さる」などの安っぽい感想などは寄せ付けず、共感なども求めてはいない。あるのは「生きている」ことの生々しい息遣いであり、狂おしいほどの欲望なのだ。ココロも身体もギラギラしているのだ。
映画は、"「麻希のいる世界」の中にいる由希"の視点であり、もしかしたら麻希は由希にとっての妄想的存在なのかもしれない。現実に麻希がいることは確かだが、由希の憧れを体現している理想像として、頭の中でデフォルメされているだけかもしれない。
いろんなことを思い描かせてくれるこの映画は、やはり優れた演出による部分が大きいと思う。監督の解説を是非聞きたい。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。