岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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湖水地方の風景が美しい、父と子との再生の映画

2024年05月01日

コットンテール

©️2023 Magnolia Mae/ Office Shirous 

【出演】リリー・フランキー、錦戸亮、木村多江、高梨臨/恒松祐里、工藤孝生/イーファ・ハインズ & キアラン・ハインズ
【監督・脚本】パトリック・ディキンソン

リリー・フランキーさんは木村多江さんを支え続けている

4か月ぶりに開催されたCINEX映画塾は、直前の告知にも関わらずチケット完売の大盛況であった。もちろん主演のリリー・フランキーさんの知名度があってこそだが、少なからず“映画塾”そのものへの飢餓感があったのには違いない。

『コットンテール』の主役は、リリー・フランキーさん(役名:大島兼三郎)と木村多江さん(役名・明子)で、橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』(2008)以来2度目の共演である。最初がうつ病の奥さんを支える法廷画家の役で、今回が若年性認知症の妻を支える作家の役。トークショーでも語っていたが、木村多江さんをずっと支えている夫という役柄は、パトリック・ディキンソン監督のこだわりなんだろう。

映画は東京パート、ロンドンパート、湖水地方パートと進んでいくが、湖水地方以外は観光案内的要素はほぼゼロだ。バッキンガム宮殿を車窓越しに眺める会話はあるが、観客には見せてくれない。リリー・フランキーさんによると、湖水地方パート以外は、撮影はしたが監督がバッサバッサとカットしたとのこと。しかしそのおかげで、生前は夫婦で一度も行ったことがなかった湖水地方の美しい風景が目に飛び込んでくるし、目的地のウィンダミア湖が神秘的で夫婦の魂が宿っているように見えてくるのだ。

不器用で一見わがままな兼三郎だが、認知症になった妻・明子をいたわりつつ愛する様子は、昭和の日本映画の夫のようだ。

イギリスの湖水地方まで同行する息子夫婦(錦戸亮さん、高梨臨さん好演)と、なかなか本心を打ち明けない困った父との関係性も、決定的対立まではいかない。息子は腹をたてながらも父の悩みを理解しようとしているし、父・兼三郎も勝手な行動をしつつも、息子夫婦に介入しようとはしていない。

カットし過ぎで繋がりがわからないところもあるが、リリー・フランキーさんの好演で補っており、鑑賞後感がとてもいい父と子の再生の映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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