岐阜新聞 映画部

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時を超えて紡がれる、純粋な愛の記録を描いたユートピア映画

2021年02月03日

燃ゆる女の肖像

© Lilies Films.

【出演】ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ
【監督・脚本】セリーヌ・シアマ

「見る側と見られる側」から、「見つめ合い、求め合う」へ発展する

 本作は、フランス革命(1789~99)前の1770年、英仏海峡と大西洋に突き出た半島・ブルターニュ地方の孤島を舞台に、女性達だけを主役にした、時を超えて紡がれる純粋な愛の記録を描いたユートピア映画である。

 ブルターニュの貴婦人(ヴァレリア・ゴリノ)の娘エロイーズ(アデル・エネル)は、親が定めたまだ見ぬ男との結婚に、肖像画を描かせないという抵抗を試みている。それを打開するため貴婦人は、エロイーズには内緒にして、若い女性画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)に「散歩の相手」という名目で肖像画作成を依頼する。

 マリアンヌは、孤島へ向かう途中・船から画材道具を落としてしまうが、果敢に服のまま海へ飛び込む強靭な意志の持ち主だ。

 一方でエロイーズは、島に住みながら海に入ったことがないなど保守的な生き方を強いられてきた。

 ドレスの色も、マリアンヌは情熱的で活力に溢れた「赤」であるのに対してエロイーズは調和や安全をイメージさせる「緑」と対照的だ。

 一旦は完成させた肖像画だが、騙されたと知ったエロイーズは「私に似ていない」と拒否する。しかし彼女は落胆するマリアンヌに、意外にも「モデルになる」と言いだす。これをきっかけに、2人は「見る側と見られる側」から、「見つめ合い、求め合う」という対等の立場へ、そして恋愛感情へと発展していく。

 映画は前半で描かれる、ギリシャ神話のオルフェウスが「振り返る」という禁断の行為をしてしまった話や、エロイーズがピアノでヴィヴァルディの「四季より夏」を弾くシーン、何度も登場する炎などが、すべてが後半に繋がっていく緻密な構成だ。セリーヌ・シアマの脚本と演出は完璧といっていい。

 風になびく草木、崖から見える砕け散る波、淑女が住むにふさわしい小さな宮殿。美しい彩りを背景に、人間の視線を的確に写し取ったクレア・マトンの撮影もまた素晴らしい。

 紛れもない傑作だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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