岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

BL映画の枠を突き抜けた普遍的な恋愛映画

2020年11月04日

窮鼠はチーズの夢を見る

©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

【出演】大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
【監督】行定勲

ひとを好きになること 恋愛に溺れること 追いつめられた果てに見えるもの

 朝の通勤風景。自転車を漕ぐ大伴恭一(大倉忠義)。それを追う視線がある。車で追うのは今ヶ瀬渉(成田凌)。7年ぶりとなる再会はそのあと、渉は興信所の探偵で、恭一の身辺調査のための追跡だった。依頼人は恭一の妻。渉は浮気現場の証拠を差し出す。この導入にはかなり強引な違和感が残る。調査対象が恭一であったことは単なる偶然にせよ、その後の渉の「昔からずっと好きだった」という告白は唐突に感じる。そして、調査結果を隠蔽する代償に、渉はキスをせがむ。

 大学での出会いは短い回想のカットバックで挿入される。一目惚れの瞬間、呑み会での視線のぶつかり合い。さり気ない恭一の反応で、渉の一方的な思いが、実はそうではなかったことを暗示して、冒頭からの違和感は次第に剥がされる。

 原作は水城せとなの漫画で、女性向けコミック誌「Judy」の増刊号(NIGHTY Judy)に掲載され、のちに単行本化された。タイトルはシリーズ連作にそれぞれつけられており、「窮鼠はチーズの夢を見る」は便宜上の総称で、映画化には別に「俎上の鯉は二度跳ねる」がクレジットされている。

 「キスだけ」は守られることはなく、「舌はよせよ!」と拒絶はしたものの、あっけなく発展していく。

 恭一はジャニーズのアイドルグループ関ジャニ∞のメンバー大倉忠義が演じている。序盤の艶かしい絡みのシーンから、かなり踏み込んだ演出の要求に応えていく。

 渉はここのところ映画、テレビと出演露出が際立つ成田凌が演じる。冒頭の再会シーンの小首を傾げちょっとぶりっ子な仕草から、濃厚なキスシーンまで、自在な色気を発散する。中盤、恭一に選択を迫るシーンで見せる、女性に向けた苦笑いに含まれた感情の襞の細やかな表現は鳥肌もの。

 浮気の隠蔽は無駄骨に終わり、離婚した恭一は独り暮らしとなる。そして、渉は自然にそこに居座るようになる。

 止まり木のような椅子やライター、灰皿から下着まで、細かい小道具にはそれぞれに伏線があり、緻密な演出の技を随所に感じる。BLとか同性とかいう枠を突き抜けた、恋愛映画のひとつの究極の形を見た。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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