岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

名作『二十四の瞳』の舞台で、映画に浸る一日を過ごす

2019年08月21日

松竹座(香川県)

【住所】香川県小豆郡小豆島田浦
【電話】0879-82-2455
【座席】40席

 間もなく、夏の太陽をたくさん浴びたオリーブが実る季節を迎える瀬戸内海の小豆島。初めて訪れたのは、去年のちょうど今ごろだった。四国の高松から坂手港まで、ジャンボフェリーで片道1時間ほど。片道690円という安さに、ここでは船は電車やバスと同じ感覚なのだ…と思った。朝早かったので船内できつねうどんを食べた。船内にはトラックの移送が多いためか、トラック運転手だけが利用できるシャワー施設がある。腹ごしらえをしてデッキに出ると、潮風が実に心地良かった。

 小豆島は、木下惠介監督の代表作にして日本映画史に残る不朽の名作『二十四の瞳』の舞台となった島だ。冒頭、田浦岬にある分教場に向かって自転車を走らせる高峰秀子演じる大石先生の姿が映し出される。「ほんに世の中変わったのう、おなごが自転車に乗る」と村人の言葉なんかどこ吹く風で、颯爽と駆け抜けていく背景には穏やかな内海湾が見える。

 子供たちが通う「岬の分教場」として使われた校舎は、明治35年に建築された葺平屋建の建物で、現在は町の指定文化財になっている。撮影中も通常の授業をしていたため、見学者が窓から覗き込んだりして頻繁に授業が中断されたそうだ。そこから先に700メートル進んだところに、朝間義隆監督によるリメイク版で、約1万5千平米もの広大な敷地に作られたオープンセットを活用した映画のテーマパーク「二十四の瞳映画村」がある。松竹の美術スタッフたちによって、分教場と12棟の民家から成る昭和初期の漁村が細部まで見事に再現されている。それがそっくり街に寄附された。

 坂手港に着くと、分教場の保存会と映画村の専務理事を務める有本裕幸さんが、ありがたいことに迎えに来てくれていた。有本さんは、昭和62年にオープンして以降、年々来場者が落ちこんでいた映画村に、再び観光客を呼び戻した立役者だ。映画村の中には、セットを活用した映画のギャラリーやブックカフェがあり、一日楽しむ事ができる。映画村の奥にある「松竹座」という小さな映画館では毎日『二十四の瞳』を上映しており、他にも落語や音楽、トークイベントも開催されている。ロビーは戦前の映画館をモチーフとしたレトロなデザインで、テケツ(チケット売り場)にあるボタンを押すと、モニターに映し出された女優の高畑淳子さんが場内へ案内してくれる。

 帰りのフェリーまで時間があったので、映画村の前から渡し舟で内海湾の対岸に渡る。映画の中で大石先生が小さな舟で自宅から分教場へ通ったコースだ。陸路なら車で30分も掛かるところ10分で着いた。一隻の舟で船頭さんは、お呼びが掛かれば何往復もされているそうだ。乗客は私だけだったので申し訳ない気がした。車ではなく、こんな風にゆっくり島を見て回るのは格別だ。最近はシェアサイクルを導入したので、映画村まで自転車で来て、帰りは自転車を乗り捨てて渡し舟や路線バスでゆっくり帰る…なんて自分なりにコースをカスタマイズして島を満喫してはどうだろうか。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2018年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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