岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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名優・大杉漣 最後のメッセージ

2018年11月25日

教誨師

©「教誨師」members

【出演】大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研
【監督・脚本】佐向大

死刑囚と対等に対峙しその声を聞く

 教誨師とは、刑務所において、服役中の囚人に対して、過ちを悔い改め徳性を養うために道を説く者のことを言い、多くは宗教家が任ぜられる。日本では真宗系の僧侶が多かったが、戦後、政教分離の原則から篤志の宗教家によって行われるようになった。

 『教誨師』の主人公佐伯はプロテスタントの牧師という設定で、聖書の言葉を伝えはするが、宗教色はきわめて薄い。囚人を集めた講演形式で行われる場合、強制的に参加させるものが普通で、一対一の対面形式は囚人の希望によって行われる。佐伯が対峙するのは6人の死刑囚である。

 6人の死刑囚が死を受け入れる度量は様々で、あるものは犯した罪をいまだに利己的な言い訳でしか語れない。また、あるものは、裁判で確定した事実認定を覆すようなことを言い出し、立ち会いの刑務官の制止を受けたりする。女性囚は拘置所の生活を妄想と誇張で語り、ヤクザものの男は強い自己主張を自己完結で語りつくす。老人は文盲であることを告白し、佐伯に教えを請い、洗礼を希望する。

 その中にあって、高宮という若い死刑囚に焦点を当てたパートが際立つ。彼が犯した罪には固有名詞が現れないが、あきらかに近年起きた大量殺人のことを示唆する。高宮は自己の主張を正当化し、理論整然とした論調で、佐伯に挑みかかる。聞き役に徹した佐伯の感情は、時には揺らぎ、自らの過去の心残りに引き戻される。

 今年2月に急逝した大杉漣が遺した最後の主演作にして、最初のプロデュース作。らしさ溢れる、静かだが信念が込められた力作。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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