岐阜新聞 映画部

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国家的大スクープの内幕を描いたスリリングな実録映画の傑作

2018年06月02日

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

【出演】メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィット・フォード、ブルース・グリーンウッド
【監督・製作】スティーヴン・スピルバーグ

血液の循環のような、力強く迫力ある輪転機

 「独立を確保し干渉を許さず、真実を追求し公正・敏速な報道に努める」ジャーナリズムは、国民を代表し「権力を監視する」役割を持っている。それと同時に資本主義社会では新聞社も民間企業であり、秘密漏洩等の違反行為や広告主の事業への批判記事などで会社が存続できなくなれば、元も子もない。本作は、高級紙であるが一地方紙にすぎなかったワシントン・ポストが、株式上場を前にして、国家的大スクープを報道するかどうかの内幕を描いた、スピルバーグ監督のスリリングな実録映画の傑作である。

 この映画が並の映画監督の作品と違うのは「歴史的事実を忠実に描いたら今の時代と重なった」などと、単純にトランプ政権への批判だけにしなかった点である。

 舞台となる1971年当時、ワシントン・ポスト初の女性社主となったキャサリン(メリル・ストリープ)は「女性・経営の素人・ジャーナリストでない」の三重苦で社内での発言もままならなかったが、スクープを掲載するかどうかの決断をしなければならなくなる。弁護士から記事の見送りを説得されるが、敏腕記者ベン(トム・ハンクス)との信頼関係から掲載を決定する。これに至る心理のプロセスは、名女優メリル・ストリープのさすがの演技で、当時の女性の自立への讃歌が描き出される。

 政府との対立も、敵か味方かという図式でなく、記事によって窮地に陥れるのは旧知の間柄の政府高官であり、友人関係を念頭に入れたとしてもジャーナリズムの矜持として真実を報道するのだ、との誇りが高らかに謳いあげられる。そこからは「言論・表現の自由を守り、権力の暴走をストップさせるのは、君たちジャーナリストなのだ」とのエールが、スピルバーグ監督より連帯のメッセージとして伝わってくる。

 掲載の決断の後、力強く輪転機が回るシーンは、まるで人間の心臓であり血液の循環のように見えてくる迫力のある映像だ。天才スピルバーグ圧巻の映画である。


『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』は岐阜CINEXほか、全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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