岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

弱者を救えない社会への怒りを描いた傑作

2024年07月12日

あんのこと

©2023『あんのこと』製作委員会

【出演】河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
【監督・脚本】入江悠

社会のシステムから零れ落ちたあんの悲劇

「あんのこと」は、母親から虐待され、不登校で小学校も卒業できず、売春で家族の生活費を稼ぐシャブ中毒の女性が主人公の、実話に着想を得た社会派人間ドラマで、弱者を救いきれない日本社会に対する怒りと、正義が人を幸福にするとは言い切れない歯痒さを正攻法で描いた入江悠監督の入魂の傑作。

入江悠は「SR サイタマノラッパー」で注目された映画監督で、「22年目の告白 私が殺人犯です」や「AI崩壊」等の純粋な娯楽作品を撮る一方で、「ビジランテ」や「ギャングース」等の社会派の娯楽作品も発表している。映画だけでなく「ネメシス」などのテレビドラマの演出も手がける活躍ぶりだが、今回の「あんのこと」は入江悠監督の最高傑作と言える素晴らしい出来栄えで、今後の活躍が非常に楽しみである。

警察に逮捕された香川杏(河合優実)は、薬物中毒者を支援している刑事・多々羅(佐藤二朗)や彼の友人のジャーナリスト・桐野(稲垣吾郎)との出会いによって人生が好転するかにみえたが、コロナ渦でわが国のセーフティネットの陒弱さが露呈し職を失ってしまう。さらに頼りの多々羅刑事のスキャンダルが、彼女の不幸に拍車をかける。社会のシステムから零れ落ちた主人公あんの転落の人生が悲しい。

主演の河合優実は、2021年公開の「由宇子の天秤」と「サマーフィルムにのって」で、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞をはじめとする新人賞を総なめにした、今最も注目されている若手女優。他にも「愛なのに」、「冬薔薇」、「PLAN75」、「少女は卒業しない」など、作品ごとにまったく違うキャラクターを見事に演じわけている。本作ではヒロインあんの過酷な人生を自然な感情表現で演じ心揺さぶられる。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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