岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

国境で起きている理不尽な現実を告発する傑作

2024年07月01日

人間の境界

©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

【出演】ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ
【監督】アグニエシュカ・ホランド

EUは自由の象徴かあるいは単なる幻想か

アニエスカ・ホランド監督は、1948年ポーランド・ワルシャワに生まれた。

父・ヘンリクはユダヤ系ポーランド人、母・イレーナはキリスト教系ポーランド人で、父親の両親は第二次世界大戦中、ナチスが設置したワルシャワ・ゲットーで亡くなっている。母は敬虔なローマ・カトリック教徒で、戦中は地下抵抗組織 "ポーランド地下国家" に属し、44年のワルシャワ蜂起でも前線で戦った。

アニエスカ本人は特に宗教的な教育を受けることはなかったが、そんな親を見て育った。

プラハで映画製作を学び、ポーランドではアンジェイ・ワイダ監督の運営する映画ユニット「X」に所属して、ワイダ作品の脚本を手がけた。

70年代後半から映画監督としてデビューしているが、日本で紹介されるのは90年代の事だった。

『コルチャック先生』(1990年/日本公開1991年)は、ワイダの代表作のひとつで、第二次大戦中、ユダヤ人孤児たちをナチスから救い、自らもホロコーストで犠牲となった実在のユダヤ人医師ヤヌシュ・コルチャックの生涯を描いている。アニエスカは監督と共同で脚本を書いた。

アニエスカ監督作品では、日本で紹介され始めた93年に公開された『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』(1990年)で、ナチスの迫害に翻弄されるユダヤ人を描いた。

『人間の境界』の舞台となるのは、主にポーランドとベラルーシの国境付近。鉄格子や金網が設置されている場所もあるが、そこは森の中で確かな目印はない。

内戦が続く祖国シリアを逃れた幼い子どもを連れた家族は、やっとの思いで国境の森に辿り着く。ほっとしたのも束の間、国境警備隊に捕まり、再びベラルーシ側に送り返される。更に再び、ポーランドへ強制送還される…その繰り返し。

人間をまるでピンポン玉のように扱い、国境というネット越しに打ち返す国の事情。映画の視点は難民、支援活動家、国境警備隊など多角に及び、単純な回答なき厳しい現状=今を見せる。ホランド監督の告発に無力にたじろぐ我々に、何ができるのか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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