岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

監督と同じく好感の持てる爽やかな一遍

2018年04月19日

blank13

©2017「blank13」製作委員会

【出演】高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、村上淳、榊英雄、金子ノブアキ、村中玲子、佐藤二朗、リリー・フランキー ほか
【監督】齊藤工

『生きる』を思い起こさせる葬儀場での思い出語り

 シネフィルで知られる俳優・斎藤工が監督「齊藤工」名義で撮った本作は、初長編の気負いもなく独りよがりにもならず、70分という控えめな上映時間を含め、彼の見た目と同じく好感の持てる爽やかな一遍となった。
 映画の前半は、雀荘に入り浸り、借金取りに追われていた父親(リリー・フランキー)と、彼に振り回され困窮する母子の様子が描かれる。家族を支えるため必死になって働く母親(神野美鈴)と、その理不尽さから父への怒りを隠さない兄(斎藤工)。その様子はたまらなく痛々しく辛く、身勝手な父親を許せない気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
 13年間音信不通だった父が余命3か月のガンと分かり、一人見舞いに行くコウジ(高橋一生)の前に現れた父は、相も変わらず電話でお金の無心をしている。しかし、彼の知っている父親は、野球もうまく笑顔でキャッチボールをしてくれて、甲子園にも連れて行ってくれた優しい父親。家族に迷惑をかけていたことも、突然いなくなって憎かったことも全部分かっているんだけど、何故か愛おしい父親。被害をいっぱい被った母や兄とは違った思い出の感覚は、小さかったからこその特権である事がよく分かる。
 後半、葬儀場での参列者による思い出語りのシーンは、黒澤明の『生きる』のようでもあり、芸達者な役者陣のユーモアあふれる語り口によって、13年間のブランクが鮮やかに埋まっていく。家族には面倒ばかりかけていた父親も、他人にはお人好しで金に困った人には工面までして、居場所が無くなった知り合いは一緒に住まわせる。人のために尽くし感謝された一面を聞くと、「ちょっとは許してやろうか」と思えてくる。こういった人情噺の部分は、佐藤二朗にMC的役割を担わせる事で、とてもうまく筋を運ばせている。
 齊藤工監督は全部一人でやろうとせず、それぞれの専門家に任せたのであろう。プロが作った映画であり、次回作が期待できる監督である。

『blank13』は岐阜CINEXで4月21日より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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