岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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杉咲花の演技が素晴らしい、ミステリー仕立ての人間ドラマ

2024年02月02日

市子

©2023 映画「市子」製作委員会

【出演】杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
【監督】戸田彬弘

出生の秘密によって人生が左右される

日本における行方不明者の数(警察届け出分)は、毎年8万人台にのぼる(2022年は8万4,910人)。理由は家庭内や職場でのトラブル、不倫や駆け落ち、金銭関係や病気などが多いが、中には新興宗教による出家、某国による拉致などもある。

本作は、3年間同棲していた川辺市子(杉咲花)“と名乗る女性”に結婚を申し込んだ恋人・長谷川(若葉竜也)が、突然失踪した彼女の行方を追っていくミステリー仕立ての人間ドラマである。

「事件・事故ではなく、人が突然今までの生活環境からいなくなること」のうち、「どこに行ったのか分からず、なぜいなくなったのかの理由・動機も全く不明な状態」を「蒸発」というのに対し、「行方をくらませた理由・動機が不明であっても、家族・恋人など近しい人にはある程度理由が推測できる状態」を「失踪」という。

おそらく市子は長谷川に対して、子どもの頃や家族のことを語らなかっただろううし、少なくとも病気になっても医者にかからなかった。彼女が「失踪」したとき、いままで何となく感じていた「漠然とした不信」はあったことだろう。

長谷川は半ば探偵のようにして、彼女の半生をたどり関係者を尋ね歩く。その人たちの証言で偽名や年齢詐称などが判明してきて愕然とするが、少しずつわかってくる彼女の生い立ちは、凄まじく激烈で信じられないほど過酷だ。

映画は、日本の「無戸籍者1万人」といわれる問題に踏み込んでいく。そもそも戸籍制度は日本と中国にしかなく、そのうえ現行民法の「婚姻解消300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する」という規定がネックとなり、出生届が提出されない場合があるのだ(なおこの規定は2024年4月1日から廃止される)。

自分に責任は無いのに出生の秘密によって人生が左右される。それはあたかも映画『砂の器』のテーマである「宿命」を彷彿とさせる。

杉咲花の演技が素晴らしい傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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