岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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五感を刺激し、たまらなく食をそそられる映画

2024年01月24日

ポトフ 美食家と料理人

©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

【出演】ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
【監督・脚本】トラン・アン・ユン

調理の様子はスリリングで、最高のスペクタクルだ

『ポトフ 美食家と料理人』という題名から私が勝手に想像したのは、「高名で傲慢な美食家が、誇り高き料理人が作るポトフに魅了されるドラマ」だ。

しかし『蒼いパパイヤの香り』(1993)で鮮烈なデビューを果たしたトラン・アン・ユン監督の7年ぶりの新作が、ウェルメイドな感動作であるはずは無かった。

どうやら監督には、語り口うまく観客にスラスラ入っていくストーリーなど興味が無いようだ。お話をスムーズに繋げていく意思は感じられず苦手な人にはついて行けない。

こういう作風は疲れているときに観ると話が頭に入っていかず、本作も観ていてちょっとしんどかった。私とトラン・アン・ユン監督はどうも相性が悪い。

しかし肌が合わなかっただけで決して悪い映画ではない。なにしろカンヌで監督賞を取った映画だ。よかった部分はいくらでもある。

1885年のフランス。美しい田園風景の中で収穫され、調理され、食される世界は、それ自体が極上のご馳走である。料理のレシピを考案する“美食家”ドダン(ブノワ・マジメル)と、それを実現する“料理人”ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)のお互いをリスペクトする関係性はとても心地よい。ドダンが求婚する様子とそれをかわし続けるウージェニーは見ているだけで微笑ましい。

圧巻はいきなりやってくる。映画の冒頭30分、ドダンの美食家仲間の午餐会のための調理だ。シャトーの前でウージェニーが(おそらく)無農薬有機農法の野菜を収穫し、ドダンや助手と一緒に調理にかかる。切る、煮る、蒸す、焼く、炒める。それらがワンカットで描かれていく様はスリリングで最高のスペクタクルだ。

グツグツ煮える音やわきたつ湯気などが見ている観客の五感を刺激したまらなく食をそそられる。そのシーンは料理映画の傑作『バベットの晩餐会』(1987)を彷彿とさせる出来栄えである。

とにかく料理が楽しめる映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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