岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

「理想郷」はひとそれぞれ、実話ベースの人間関係スリラー

2024年01月23日

理想郷

©Arcadia motion pictures,S.L.,Caballo Films,S.L.,Cronos Entertainment,A.I.E,Le pacte S.A.S.

【出演】ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン
【監督】ロドリゴ・ソロゴイェン

嫌がらせの数々は、ほぼ犯罪級

日本でも増えているのが、スローライフを求めて都会から地方へ移住する人たちである。都会の喧騒から離れてストレスなく生活したい、自然環境に恵まれた空気の良いところで自給自足しながらのんびり暮らしたいなど理由は様々だ。

私は生まれ育った田舎でいまも暮らしている。限界集落ではないので切羽詰まってはいないが、それなりに町内会活動もあり都会よりもコミュニティーは面倒くさいかもしれない。

『理想郷』は、エコライフを求めてスペインの田舎町ガリシア地方へやってきた、インテリのアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)のフランス人夫婦が、地元の人たちと敵対関係になっていく様子を描いた、実話ベースの人間関係スリラーである。

夫婦が移住してきた町は自然には恵まれているが、地元にとっては長年の過疎に悩む地域で、風力発電を誘致することによってある程度の豊かな生活を送ろうとしていた。

おそらく最初から敵対していたわけではない。それまでは共存共栄していただろうが、風力発電という利害が相反する施設のせいで、「よそ者」と地元民の対立を生み出してしまう。

特に隣人で畜産業のシャン(ルイス・シャエラ)とロレンソ(ディエゴ・アニード)の兄弟は、夫婦に激しい敵意を見せる。その嫌がらせの数々は、ほぼ犯罪級である。

映画は次第に不穏な心理スリラーとなっていく。ここで重要なのは、田舎の人たちは一見偏屈でわからず屋のように見えるが、異常な人間なのではなく、国の政策からほったらかしにされた取り残され感と、打開できない閉塞感が垣間見られることだ。

一方でフランス人夫婦は被害者ではあるが、地元の状況を考慮に入れず自分たちの「理想的」とする考えだけで生活していると見えるかもしれない。

リベラルとワーキングプアの対立も頭をもたげ、「理想郷」が実は全くべつものだったとも言える。とても怖い映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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