遺された男たちが照れ隠しの自虐に見える

海岸、波打際に打ち上げられた男女、心中。

そして、通夜。女優の死。玄関先での押問答。心中したふたりは女優と映画監督で通夜に訪れた栩谷(綾野剛)は、ふたりとは同業の映画監督だった。そして、女優・祥子(さとうほなみ)は同棲相手でもあった。

門前払いされた後、祥子との心中相手の映画監督のもうひとつの通夜。荒んだ通夜の景色。斜陽のピンク映画業界に生きる人の荒れた感情。

『花腐し』は松浦寿輝の同名の芥川賞受賞作小説の映画化であるが、主人公の栩谷が生きているのが、ピンク映画界という大きな脚色が行われている。

ある日、栩谷は家賃を滞納しているアパートのオーナーに、別のアパートで立ち退きを拒絶している男との交渉を依頼される。

取壊し建て替えが予定されているアパートにひとり居座る伊関(柄本佑)。栩谷は巧妙にあしらわれそうになるが、ひょんなことから、ふたりは会話を続けることになる。

韓国居酒屋のカウンター。栩谷と伊関はマッコリから焼酎の胡瓜割りの手酌で語り始める。

監督、脚本(中野太との共作)は荒井晴彦。前作『火口のふたり』(2019年)では、キネマ旬報ベストワンなど、各賞を受賞し高い評価を受けている。我々の世代には本格的な脚本家デビューから間もない70年代から、タイムリーに作品に触れていたこともあり、脚本家としての思い入れは強くある。そして、長く日本映画を支えている存在であると言っても過言ではない。

栩谷と伊関の話題は、それぞれが出会った ”いちばんの女” についてである。

演出では祥子が存在している過去の話はカラーで、今はモノクロの映像で描かれる。ふたりの男にとって図らずもかけがえのない存在であった女性の精一杯の血の通った生=性と、残された男たちの荒んだ生き様の対比だろうか？

ならば、祥子が心中を選択する、生きることへの決別の理由が分からないのは辛い。沈澱した世界に堕とされたままで、遺された男どもは足掻き続けなければならないのか…？