岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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3人の鬱々たる人生を描く荒井晴彦監督の最高傑作

2023年12月19日

花腐し

©2023「花腐し」製作委員会

【出演】綾野剛、柄本佑、さとうほなみ、吉岡睦雄、川瀬陽太、MINAMO、Nia、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座美代子、奥田瑛二
【脚本・監督】荒井晴彦

翔谷と伊関は同一人物の裏表

鳴かず飛ばずで5年間映画を撮れていないピンクの監督・翔谷(綾野剛)と、取り壊し予定のアパートに居座る元脚本家志望の伊関(柄本佑)。

売れない女優・祥子(さとうほなみ)と同棲していた翔谷と伊関は、同じ女を愛していたとは知らないまま、お互いの女のことを話し始める。

  『花腐し』は、万葉集の「春されば卯の花腐し…(春になると卯の花を腐らせるような雨が降り…)」から取られた松浦寿輝さんの芥川賞受賞作で、舞台を廃れゆくピンク映画界に置き換え、その世界にしがみついてきた3人の鬱々たる人生を雨と酒と煙草とSEXを交えて愛おしく描いた、荒井晴彦監督作品の中の最高傑作である。

アパートからの追い出しを申しつけらた翔谷と、彼から退去を迫られる伊関だが、割とすぐに意気投合する。伊関が翔谷を「本当は優しい奴」と見抜いたからだが、同じ業界の人間として共感するところがあったのだろう。

この2人背格好や髪型を始め、仕草や表情までよく似ている。祥子が好きになるのが同タイプの男だとも言えるが、実は翔谷と伊関は同一人物の裏表、あの幽霊屋敷然としたアパートの住人は、翔谷のもう1人の自分なのではないか?

祥子が妊娠した時に、伊関は生んでくれと言うが祥子は女優の夢を諦めたくないので降ろすと言う。逆に翔谷は降ろせというが祥子は生みたいという。これは翔谷の後悔の現れなのだ。

翔谷が祥子と桑山との関係を疑った時に、怒らなかったことを後悔する。結果、祥子は桑山と心中している。

そしてマジックマッシュルームを食べてのエロチックなSEX、そこは男がもてあそばれる幽玄の世界なのだ。

ラスト、翔谷アパートの階段で佇んでいると、幽霊の祥子が真っ白なドレスを着て後ろを振り向かず通り過ぎていく。「さよならの向こう側」で純白のドレスを着て舞台上にマイクを置いて去っていった山口百恵を連想し涙が出てきた。繰り返し観たい作品だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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