情感豊かな雨のシーンと効果的な挿入歌の選曲

「花腐し」は、「遠雷」、「Wの悲劇」、「リボルバー」、「ヴァイブレータ」等のシナリオライターとして知られる、荒井晴彦の４作目の監督作品でR18＋の成人映画である。

前作の「火口のふたり」ではキネマ旬報のベストワンに輝いているが、「花腐し」はそれを超える出来栄えで荒井晴彦監督の最高傑作だと思う。

５年も新作が撮れずにいるピンク映画監督の栩谷（綾野剛）が、大家から取り壊し予定のアパートに居座る住人の立ち退き交渉を依頼される。朽ち果てかけたアパートからの立ち退きに応じないのは、シナリオライターを目指し挫折した伊関という男（柄本佑）。ふたりは酒を酌み交わし、それぞれが以前同棲していた女の思い出話を語り合う。ふたりが話す現在のシーンがモノクロームで描かれ、その話の回想シーンがカラーで描かれる。ふたりは知らないのだが、回想シーンから彼らが同棲していた女は同一人物であることが、観客にはわかるという構成になっている。

男女の出会い、蜜月時代、そして気持ちのすれ違いからの別れまで、男と女を描く荒井晴彦の演出は絶品。成人映画なので性行為も生々しく描かれるが、それらの場面もその時々の男女の関係の喜怒哀楽が滲み出ているのが見事である。

ピンク映画へのレクイエム的な場面も興味深いが、同棲していた愛する女を幸福にできなかったふたりの男の悔恨が胸を打つ恋愛映画として高く評価したい。

情感豊かな雨のシーンが印象に残る。そしてエンディングのカラオケシーンを筆頭に、挿入歌の選曲が最高の効果をあげているのが歌にこだわる荒井晴彦らしい。

綾野剛と柄本佑も好演だが、ヒロインを演じたさとうほなみが素晴らしい。