岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

奇想の家族が本音をさらけ出す愛の物語

2023年12月13日

愛にイナズマ

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

【出演】松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也/仲野太賀、趣里/高良健吾、MEGUMI、三浦貴大、芹澤興人、笠原秀幸/鶴見辰吾、北村有起哉/中野英雄/益岡徹、佐藤浩市
【監督・脚本】石井裕也

コロナ禍を象徴する不可解な空気感が見え隠れする

26歳の折村花子(松岡茉優)は、映画作家を目指し、ハンディカメラを手に、街の出来事を映像で記述する試みを日課としている。

ある日、青年がビルの屋上から飛び降りようとしている現場に遭遇する。群がる野次馬たちに紛れて、カメラを向けたが、青年は警察官に説得されて、飛び降りを断念。おまけに、カメラはバッテリー切れで撮影できていなかった。

そんなエピソードをシナリオにして、映画のプロデューサーに持ち込み、映画化の話に進展している導入はかなり強引な展開。業界の胡散臭さを浮き彫りにする女性プロデューサー・原(MEGUMI)や、助監督・荒川(三浦貴大)の存在も見え見えな下心でデフォメルされている。

『愛にイナズマ』は、この気味の悪い序盤からから、長らく音信不通だった父と2人の兄との再会によって、新展開を見せる家族の物語である。

監督は27歳の商業映画デビュー作『川の底からこんにちは』(2010年/初出09年)以来、コンスタントにキャリアを重ね、評価を高めている石井裕也。本年度は2本の長編があり、まもなく、CINEXでも『月』の公開が控えている。

妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、達者な口を武器に世間をわたり歩いている長兄・誠一(池松壮亮)、真面目が取り柄でも危うい次兄・雄二(若菜竜也)、というダメ家族を映画に撮ることで自らにもけりをつけたい花子は、半ば強引に家族にカメラを向ける。本音でぶつかることを避けてきた家族が、カメラを前にようやく全てを曝け出していく。

この不可思議な家族の物語をオリジナル脚本で創作したのは石井監督のかなりの力業。所々にある強引なアンフェアな展開を役者のアンサンブルが生む相乗効果で緩和させる。

そしてもうひとり、胡散臭さの象徴、巻頭から顔を見せている舘正夫(窪田正孝)の存在が狂言回しを担う。

微妙なバランスでまとめられた奇想のファミリームービーだか、妙に心に響く魅力に満ちている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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