岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

チョット変わった家族が織りなす石井裕也監督の世界

2023年12月13日

愛にイナズマ

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

【出演】松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也/仲野太賀、趣里/高良健吾、MEGUMI、三浦貴大、芹澤興人、笠原秀幸/鶴見辰吾、北村有起哉/中野英雄/益岡徹、佐藤浩市
【監督・脚本】石井裕也

「そんなやり方はしない、これは業界の常識」???

私は映画は観る一方で映画製作の現場は知らないが、本作で描かれる映画の企画段階から撮影に至るプロセスは、リアルを知らないのにリアリティを感じてしまう。調子がよく軽薄な映画プロデューサー原(MEGUMI)から「上の判断だから」と責任逃れをされたり、業界訳知り顔のベテラン助監督荒川(三浦貴大)から「そんなやり方はしない、これは業界の常識」とドヤ顔で言われると、監督デビューしたての花子(松岡茉優)共々、心が折れてしまう。

これは石井裕也監督の演出技術が優れている証であり、映画業界だけでなく「こういう奴いるよね」と共感できるのである。

『愛にイナズマ』はすこぶる面白い。助監督の荒川から、あらゆる設定に「意味と理由」がいると言われ戸惑う花子だが、一般の会社でも思い付きで指示をするくせに「理屈」を付けてくる上司に辟易する部下の姿がダブって見える。

いちいち説明はつかないけど、何か感覚的にいいってものもいくらでもある。むしろその方が常識に囚われない良いものが生み出されるかもしれないのだ。

映画の石井ワールドは、いつも通りちょっと変わった家族の話になっていく。映画監督の花子が長年疎遠だった家族のドキュメンタリーを撮るなど、マゾヒスティックでドラマはどんどん盛り上がっていく。

父(佐藤浩市)、長男(池松壮亮)、次男(若葉竜也)の3人とも上手い俳優が演じているので、その相乗効果での笑いは私にとっては爆笑のレベルだ。

でもこの映画の一番の儲け役は、空気が読めない天然男を演じる窪田正孝だ。シリアスな家族関係に彼がいるだけでなんだか和んでしまう。くさらず怒らず常に穏やかな奴が一人いるだけで、ささくれだった感情もまるくなっていくのだ。

石井監督の作品は、濱口竜介監督や今泉力哉監督のような様式美は無いが、新作が来るたびに「今度はどう攻めてくるのか」の楽しみがある。今作も大成功の作品である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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