すれ違っているようで微妙に触れ合う巧みな会話劇

かなえ(真木よう子)は家業の銭湯を継ぎ、夫の悟(永山瑛太)と穏やかな日常を暮らしていた。

そんなある日、突然、悟が姿を消す。

わけもわからず途方に暮れるかなえだったが、どうにか銭湯の営業を再開できるまでに回復し始めた幾日か後、見ず知らずの男が現れる。

男は堀(井浦新)と名乗り、銭湯組合の紹介でやって来たことを告げ、不可解さを残したまま、住み込みで銭湯で働くことになる。

一方、失踪した悟の行方を探すため、友人から紹介された探偵に頼ることになるのだが、その探偵・山崎(リリー・フランキー)の胡散臭さには不安を覚えるのだった。そして、もう一つの胡散臭い男・堀との奇妙な共同生活も、次第に平穏な日常へと変換していく。

原作は豊田徹也の同名の長編コミックで、フランスなどの海外でも人気を博している作品らしい。派手なアクションや奇想天外な話が展開するわけでもない、淡々としたお話なのに、海外のファンを獲得できる。あらためて、日本のコミックの底力を感じるが、この独特の世界観は、今泉力哉監督の得意とする領域で、その選択センスの良さを痛感することになる。

銭湯の常連客や同級生たち登場人物が内包している、ちょっとおかしな一面が、会話の中でさり気なく化学反応を起こしたり、微妙な炸裂を見せたりする…これはまさに今泉映画ワールド。

本作で浮上するのは謎の数々。悟は何故、突然失踪したのか？ 乱入者・堀は一体、何者なのか？ ここでは、敢えて深入りし、真相に辿り着く道を半ば放棄しているようにさえ見える。

図らずも、謎の権化のような存在だった探偵・山崎の小出しながら着実な真相究明の仕事ぶりの途中、ふと発した「他人をわかるってどういうこと？」という問いが言い得て妙。静かな映画の水面に波紋を起こす。

安定し過ぎて、ちょっと不満が残った近作からの見事な脱皮を見せる、新たな今泉映画の誕生と評価したい。