岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

世界最強の映画監督が作る、逆説的実録コメディ映画

2023年10月24日

熊は、いない

©2022_JP Production_all rights reserved

【監督・脚本・製作】ジャファル・パナヒ

逆境を逆手に取る、ジャファル・パナヒ監督

本作の原題は『Khers Nist(英題:No Bears)』だ。

日本の配給会社が付ける邦題は直訳がベースだが、内容の要約的タイトルやキャッチーさを重視したミスリードを伴う題名もあり、観客に届けるための苦心のほどがうかがえる。

本作の『熊は、いない』は一見直訳だが、邦題に“、(読点)”が入ることによって、劇的に意味を持つことになる。熊は本当にいないのか、いるけど「いないことにしてあげる」という世渡り上手な意味か、はたまた「どこにでもいるし、同時にどこにもいない」というメタファーなのか?  2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”により、6年間の懲役と20年間の映画制作・出国・あらゆる取材の禁止を言い渡された、ジャファル・パナヒ監督の思いを体現した素晴らしい邦題だ。

本作の主演はパナヒ監督自身だ。イランで映画が撮れないのならば、隣国トルコにいる撮影本体にオンラインにより撮影指示をするというウルトラC。コロナ禍による直接的接触を避ける風潮に対して、むしろこれぞ幸いとばかりに映画を作り続ける。当局に「これは映画ではない」と言いのける力強さもあり、ある意味「世界最強の映画監督」である。

役中のパナヒ監督が撮影で訪れた国境付近の因習に捉われる小さな村では、迷信により若いカップルが添い遂げられないでいる。親の世代は、「自分たちもやってきた」との価値観を、何の疑問もなく若い世代に押し付けようとする。

映画はいつものように、フィクションとドキュメンタリーの間を狙いながら、さりげなくイラン世界の現状を映しとっていく。あくまでもたまたま映ってしまったのだ。

映画の中で国境を越えてしまうシーンがあるが、地面に線が引いてあるわけではないので、パナヒは慌ててイラン側に戻る。実に滑稽でバカらしいのだ。

『熊は、いない』。は、隠喩を考えるのも楽しい、逆説的な実録コメディ映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る