岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

現代社会への警鐘でもある実録映画の傑作

2023年10月12日

福田村事件

©「福田村事件」プロジェクト2023

【出演】井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明
【監督】森達也

群像劇として完成度の高い脚本とリアルな演出

「A」、「A2」、「i 新聞記者ドキュメント 」などの社会派ドキュメンタリー作品で知られる森達也監督の初の劇映画「福田村事件」は、関東大震災後に起きた虐殺事件を描いた傑作。

差別、偏見、恐怖心、憎悪、デマ、情報操作、同調圧力、集団心理等が招いた負の歴史を克明に描きながら、SNSの書きこみに踊らされ、罪のない人でも袋叩きにしてしまう現代社会への警鐘にもなっている。

佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦の3名の共作による脚本は、群像劇としての完成度が高い。立場や考え方の違う福田村の村人たちと、香川から関東にやってきた薬の行商団15名、そして新聞社編集長と女性記者の各エピソードを並行して描き、当時の朝鮮人差別や部落差別を自然な会話によって浮かび上がらせ、同時に各登場人物の背景がクライマックスの見事な伏線になっている。井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、豊原功補、水道橋博士、柄本明、木竜麻生、ピエール瀧らのアンサンブル演技も素晴らしい。

森達也監督はもっとセミドキュメンタリー・タッチの演出をすると思われたが、脚本に合わせ人間ドラマらしい手堅い演出で各エピソードを描いている。しかし40分に及ぶクライマックスに至り、それまで抑え気味の演出であった森監督は一気にボルテージを上げ、圧倒的な臨場感溢れるリアルな虐殺シーンを繰り広げる。

普段は善良な人間でも残虐な行為に加担してしまう恐ろしさ、同調圧力に負け傍観者になってしまう無力感、マスコミが政府の発表を鵜呑みにしてしまう危険性等が説得力のある映像で描かれ言葉を失う。

最後に、負の歴史を描くことに弱腰な日本映画にあって、これまで殆ど知られていなかった福田村事件の映画化に挑み、ヒットさせたスタッフ・キャストの志を称えたい。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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