岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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笑って泣けて共感できる「予定調和」の映画

2023年09月25日

ふたりのマエストロ

© 2022 VENDÔME FILMS – ORANGE STUDIO – APOLLO FILMS

【出演】イヴァン・アタル、ピエール・アルディティ、ミュウ=ミュウ、キャロリーヌ・アングラーデ、パスカル・アルビロ、ニルス・オトナン=ジラール
【監督】ブリュノ・シッシュ

耳に馴染みのあるクラシック、心地よい時間

大方の予想した通りにお話が進んでいき、予想通りの結末に落ち着くことを「予定調和」という。先の読めない展開や予想も出来ない大どんでん返しもいいが、笑って泣けて共感してラストは「ハッピーエンド」という「予定調和」の映画でも、出来が良ければ満足感は高いのだ。

『ふたりのマエストロ』は、かつては一世を風靡した大指揮者フランソワ・デュマール(ピエール・アルディティ)と、その息子で新進気鋭の人気指揮者ドニ・デュマール(イヴァン・アタル)の父子の葛藤と世代交代を描いた、笑って泣ける「予定調和」の映画である。

マエストロの映画と言えば、今年7月にCINEXでも公開された、絶対的権力者の指揮者ターが次第に失墜していく様子を描いた『TAR/ター』がある。凄いパワフルで奥行きのある映画だったが満腹感でお腹いっぱいになる。

その点本作は映画の裏読みをしなくてもよく、耳に馴染みのあるクラッシックを心地よく聞きながら、映っているままを素直に観ればいい。父子が一見分かり合えなく見えてても、予定通りわだかまりはとれ、当然のように大団円に向かっていく。興味は父子が心を通わせるシーンをどう描くかだ。本作はリアルとわざとらしさのギリギリをついてきており、ほっとする。

面白いのはドニがモニターで見ているのが、ジュリオ・カッチーニの「アヴェ・マリア」を指揮する小澤征爾さんの映像である点だ。若かりし頃、かの小澤さんでもスカラ座での「トスカ」の指揮で気難しいミラノの聴衆からブーイングを浴びせられ、パヴァロッティから「ブーイングは一流の証」と慰められたエピソードだ。

スカラ座の音楽監督という超一流のポジション。かつては20世紀前半を代表する指揮者アルトゥーロ・トスカニーニも務めたこともある名誉ある地位なので、落ち込みもプレッシャーも半端ないことでしょう。

とにかく観てよかったと思えるコスパ最高の映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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