岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

回帰を模索する苦辛のロードムービー

2023年09月20日

658km、陽子の旅

©2022「658km、陽子の旅」製作委員会

【出演】菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、仁村紗和、篠原篤、吉澤健、風吹ジュン、オダギリジョー
【監督】熊切和嘉

所々にあらわれる苛立ちの先に希望は見えるか

薄暗いアパートの一室。

微かな光源はPCの液晶画面。チャットメールの通信画面で交わされる会話。そこからわかるのは、彼女=陽子(菊地凛子)がクレイマーであること。さめざめとしたネット上でのやり取りが、人の世の侘しさを暗示する…とは判断できず、唯一、見えて来るのは彼女の孤独のみ。

突然の訪問者、従兄の茂(竹原ピストル)がやって来る。

陽子の父親の死を知らせ、葬儀へ向かう帰郷を促す。父と娘の断絶はわかるが、旅立つ準備もままならない、グズとしか見えないその行動からは、彼女が抱える "闇"、あるいは "病み" が見える。

『658km、陽子の旅』は、長く音信不通だった父の死の知らせを受けた陽子が、東京から故郷の青森・弘前へ向かう旅を映したロードムービーである。

茂一家の車に同乗した陽子は、いきなりのアクシデントに見舞われる。

休憩で立ち寄ったサービスエリアで、茂の子どもが事故に遭い、その対応に追われた家族から、陽子は置いてけぼりにされてしまう。

所持金も通信手段も持たない陽子は、ただ茫然自失するしかないのだが…。

必然としてのヒッチハイクが始まる。

そこで生まれる出会いから、物語は広がりを見せるのが、こうしたロードムービーのひとつの持ち味なのだが、ここでは、陽子が築いた心の壁が立ちはだかる。

それが引きこもり生活によって、あるいは引きこもりにならなければならなかった要因、他人とのコミュニケーションが上手く取れない、陽子の "個性" にあることは理解できるが、これが些か焦ったいほどに過ぎる。

とは言え、旅は道連れ。同乗を許してくれた人たちがいて、そこに様々な形で他人との繋がり方が現れ、陽子の壁も崩れはじめる。

父と娘の関係性や陽子の有り様。その和解と成長の過程が見え辛いことは弱点と指摘したい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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