岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

精神的拷問を描く、ニューロティック・スリラー

2023年08月22日

ナチスに仕掛けたチェスゲーム

© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

【出演】オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッへ、ビルギット・ミニヒマイアー
【監督】フィリップ・シュテルツェル

現実か妄想か、判別がつかなくなってくる

ナチスが行った非人道的行為は、人間の尊厳を踏みにじり精神を破壊させる恐るべきものである。

本作は、イングリッド・バーグマン主演の『ガス燈』(1944)や『白い恐怖』(1945)のように、異常心理による強迫概念や、トラウマ的な不安に苦しむ主人公を描いた、ニューロティック・スリラーである。

1938年3月13日、ナチス・ドイツはオーストリアを併合した。ウィーンで貴族階級の資産を管理していた公証人ヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は、まさにその日に連行、ホテル・メトロポール(ゲシュタポのオーストリア本部設置。1945年連合軍による空爆で大破)に監禁されてしまう。目的は、預金番号を教えろという一点だ。

「預金番号が書いてある書類を出せ」でなく「記憶している番号を書け」というのは若干無理があるように思うが、「記憶力抜群だった」ということで突っ込まずにおく。

映画のテーマの中心はそんな「些細」なことでなく、人間の精神の壊れていく様を描いているのだ。

文学が大好きで活字中毒だったバルトークが、尋問以外一歩も部屋から出られず、一切の読み物を与えられず、腕時計も没収されて時間感覚がわからなくなる。精神的に耐えがたい拷問である。

「ウィーンの人間は音楽と文学を愛し、美食と美人を好む。チェスはしょせん退屈なプロイセン将校の娯楽だ」とうそぶいていたバルトークが、たまたま手に入れたチェスの本を熟読し、一度も駒に触ったことが無いのに、世界チャンピオンに勝ってしまう。

しかし映画の当初はあれだけ悠然と構えて自信をもっていたバルトークが、独り言が多くなったり哀れな姿を見せるなど精神が徐々に崩壊していく様を見ていると、アメリカ行きの船上でのチェスの試合が、現実なのか妄想なのか判別がつかなくなってくる。

ナチスに仕掛けてはいないので邦題は若干ミスリード気味だが、面白い作品ではある。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る