父の苦悩と絶望を感じられるようになったソフィ

本作は、シャーロット・ウェルズ監督の自伝的作品であり、初の長編映画である。現在31歳の主人公ソフィ（セリア・ロールソン・ホール）が、20年前の11歳の自分（フランキー・コリオ）と31歳の父カラム（ポール・メスカル）とのトルコの避暑地でのひと夏の思い出を、静かに語っていく。

普段は別々に住んでいる父娘だが、共通の時間を過ごすのに多くの言葉はいらない。セリフは少なく、顔の表情や身体の動きで表現していく。日常を淡々と追っていくだけの話の運びや、父親カラムが背中で語る様子は、監督が敬愛する小津映画を彷彿とさせる。

物語は、ビデオテープに残された、ソフィが11歳の時の父娘の楽し気な様子（撮られることを意識している）と、31歳のソフィが今になって想像する父の真実の姿が交互に出てくる。11歳の時に感じた父は娘思いの優しい父であったが、人生の年輪を重ね父と同じ31歳になったソフィは、父の苦悩と絶望を感じられるようになる。

ソフィが人生経験を積み重ねる中で、同じビデオテープを見ていても、ビデオに写っていない部分を想像出来るようになる。それが人生の深みなのだ。

カラムは、明らかに自殺願望がある。11歳のソフィにはわからなかったが、父と同じ31歳になったソフィは、父の気持ちを例え理解できなくても思いやることが出来るようになる。当時は見えなかった父親の内面を垣間見たのではないか。

娘と父の邂逅は、キングサイズベットで一緒に寝たり、日焼け後の肌に優しくクリーム（アフターサンバーム）を塗ったり、程よいスキンシップをしている。私も娘がいるが、プールや海には小6まで行ったが、小1の時には一緒にお風呂に入らないようにした。カラムとソフィがちょっとだけ羨ましい。

映画は決して暗いわけではなく、むしろトルコの避暑地の陽光で画面は明るい。だからこそ亡き父との思い出が対位法でより深く伝わってくるのだ。