岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

怖ろしくも美しい傑作

2023年08月07日

怪物

©2023「怪物」製作委員会

【出演】安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
【監督】是枝裕和

狭隘な人の心が怪物を創造する

本作は、今年5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭で坂元裕二が脚本賞を受賞し話題となった。また、日本映画としては初めてクィア・パルム賞に輝いた。この聞き慣れない賞が、作品が内包しているテーマを象徴していることに気づいてしまうのだが、それは大きな問題ではない。 圧倒的な湖がたたずむ山間の街が舞台。

ある日、シングルマザーとしてひとり息子と街に暮らす麦野早織(安藤サクラ)は、湊(黒川想矢)が学校で喧嘩沙汰を起こしたと連絡を受けるが、学校側の説明には納得できず、息子の様子にも違和感を感じる。

子どもの危機に直面した母親の反応は激しいくらいに熱く、真実を知りたいという気持ちはよく理解できる。

一方、学校側の対応は、あたかもマニュアルに則った事務的なものに見える。謝罪もかたちだけで誠意すら感じられない。

母の怒りは冷める気配すらない。

語口はよく言われる "羅生門効果" が使われるが、『羅生門』(黒澤明・監督.脚本/橋本忍・脚本/1950年)、あるいは同じ構成が取られた最近作の『最後の宗教裁判』(リドリー・スコット監督/2021年)とは、決定的な違いがある。

前記2作では、複数=3つの視点がそれぞれの個人の見解によって存在して、真実を謎あるいは迷宮に落とし込めているが、『怪物』で語られるのはひとつの真実である。

次の視点となる教師、そして本人(湊)の視点で描かれる事の顛末は、極端な言い方をすれば、カメラアイをほんの少し移動させただけに過ぎない。 人=他人の見る目は、所詮はそんなもの、真実は見えていないかも知れないという示唆は強烈な警告として届く。

終盤、子どもたちが築いた秘密基地での出来事は、楽園で起きた幻想のようにも見える。日本映画の最先端を進む人たちが、LGBTQを盛り込むのは意外ではなく、当然と受け止めたい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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