岐阜新聞 映画部

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「怪物」は誰か?2023年前半屈指の傑作

2023年08月07日

怪物

©2023「怪物」製作委員会

【出演】安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
【監督】是枝裕和

被害者と加害者は、見え方ひとつで入れ替わる

私は新作映画は、なるべく前情報を入れずに映画館で観るようにしている。通常1回観るだけだが、年に数本2回以上観る映画がある。

是枝裕和監督の『怪物』は、まずは白紙の状態で1回観たあと、坂元裕二さんの「オリジナルシナリオブック」(KADOKAWA)を2回読み、パンフレットを熟読してもう1回鑑賞。その後、映画本編との違いを確認しながら3回目のシナリオを読んだ。これだけ映画に深入りしたのは滅多にない。

本作が私をこれほどまでに虜にしたのは、『怪物』が素晴らしいに他ならない。

映画は、羅生門効果(1つの出来事について、それを目撃したり、経験した人たちが別々の主張をする現象)を効果的に使いながら、謎が少しづつ解けていくという構成となっており絶妙だ。セリフも洗練されて無駄が無く、さすがカンヌ映画祭脚本賞受賞の作品だと得心が行く。

1回目の鑑賞では、いま見えている現象を中心にスリリングさとパーツが埋まっていくカタルシスを覚え、2回目の鑑賞では、わかっている結果に対しての伏線の意味と、テーマに関する洞察が深まっていった。おまけで言えば、是枝監督が坂元脚本の、何を削り何を付け加えたかがとても興味深くて面白く、映画を完成させていく醍醐味が味わえた。

息子思い?のシングルマザー早織(安藤サクラ)と、加害者?の担任教師・保利(永山瑛太)、自己保身?の校長・伏見(田中裕子)。映画の章が代わるたびに、お見立てひとつでこうも印象が変わるのかと、観ている観客も翻弄される。被害者と加害者は見え方ひとつで入れ替わり、「怪物」は、誰でもそうであり、誰でもそうではないのだ。善意で生きている人も、一瞬の悪意があるからこその人間なのだ。

小5の早織の息子・湊君(黒川想矢)と友達の星川君(柊木陽太)との関係性がこの映画の肝だが、少年独特の同性を好きという感情が微笑ましい。

2023年前半屈指の傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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