岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

自由な筆致と鋭い眼ざし、ブラックユーモアが楽しい映画

2023年07月24日

遺灰は語る

©Umberto Montiroli

【出演】ファブリツィオ・フェッラカーネ、マッテオ・ピッティルーティ、ロベルト・エルリツカ(声)
【監督・脚本】パオロ・タヴィアーニ

新しさを感じるモノクロの画面

私がタヴィアーニ兄弟の作品に初めて出会ったのは、日本では1982年に公開された『父 パードレ・パドローネ』(1977)である。イタリア・サルジニア島を舞台に、文盲の羊飼いの青年が言語学者として大成する過程を描いた傑作で、キネ旬10位。ちなみに1982年のベストテンは、1位から順に『E・T』『1900年』『炎のランナー』『黄昏』『アレクサンダー大王』で、屈指の傑作揃いの年であった。

『遺灰は語る』は、兄の死により一人で監督することになった弟パオロ・タヴィアーニによる初の単独監督作で、山田洋次監督と同じ御年91歳!という巨匠である。

内容は、史上6人いるイタリア人のノーベル文学賞受賞者のうちの一人ピランデッロ(1867-1936)の遺灰を、ローマから生まれ故郷のシチリアまで運ぶ物語で、話はいたってシンプル。筆致は自由で眼差しは鋭い作風は年を取ってもいささかも衰えておらず、モノクロの画面はむしろ新しさを感じるほどの新鮮さをもたらしている。

ピランデッロは、ファシスト党員でムッソリーニの庇護も受けており、死後はファシスト式の盛大な葬儀をやる予定であったが、本人の遺言で「白い布に包み火葬して散骨してほしい。それが無理ならシチリアに埋めて欲しい」との意思表明からか、まずは一旦ローマに留め置かれることとなる。ムッソリーニ面目丸つぶれだ。

映画は史実とフィクションが織り交ぜてあるようで、パオロ・タヴィアーニの想像は、ときに滑稽に、ときにシニカルに、映像を使ってサラサラと巡らされていく。米軍輸送機による遺灰の運搬拒否や、鉄道輸送のときの一時的遺灰の紛失などブラックユーモアも楽しく、「遺灰」という単なる「灰」に対しての取り扱いが、笑うしかないように描かれている。

後半30分は、ピランデッロ原作による短編の映画化でカラー作品。少年少女が主役の不条理劇は、エッセンス満載で楽しい一編だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る