岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

伝統を守る仕立て屋夫婦が選択した決断の物語

2023年07月19日

青いカフタンの仕立て屋

© LES FILMS DU NOUVEAU MONDE – ALI N’ PRODUCTIONS – VELVET FILMS – SNOWGLOBE

【出演】ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ
【監督・脚本】マリヤム・トゥザニ

鮮烈なカフタンの青が心に刺さる タブーから目を逸さない意志のように

地中海に面したアフリカ大陸北部に位置する国モロッコ。そのほぼ中央に首都ラバトがある。街を流れるのがブー・レグレグ川で、その対岸にある街がこの映画の舞台となるサレ。ふたつの街は双子都市として発展し、サレは中世からヨーロッパの交易の中心地として栄えた。

そのサレの路地裏にハリム(サーレフ・バクリ)とミナ(ルブナ・アザバル)が営む仕立て屋がある。父親が始めた店を守り続けているハリムは、腕の良い職人だった。ミナはそんな夫を理解し、モロッコの伝統衣装である "カフタン" 作りに妥協しない姿勢で取組んでいた。

その頑なな職人仕事は時間との闘いでもあった。山積みとなる仕事をさばく円滑剤を求めて、夫婦は仕立て作業の助手を雇うことにする。

監督は一昨年に公開された『モロッコ、彼女たちの朝』で鮮烈なデビューをはたしたマリヤム・ドゥザニで、未婚の母というイスラーム社会のタブーを正面から描いた女性映画を完成させたのと同様に。本作でも伝統や禁忌を物語の核心に据えている。

"カフタン" はオスマン・トルコにその起源を持つ伝統衣装で、もともと気温の高い砂地の地域に対応した、陽射しを避ける形状と風通しの良い機能性を備えた特徴を持っている。元は、男性用だったものが、男女兼用になり発展した。

映画に登場するのは "カフタン・ドレス" で、常使いの衣服に豪華な装飾や刺繍を施したもので、その仕立ては布選びや飾りの形状までにこだわった注文品で、親から娘に受け継がれる "晴着" として進化したものである。

ハリムは根を詰めた仕事の疲れを癒すため、大衆浴場=ハマムに通う。そこは所謂、蒸し風呂=サウナなのだが、マハムは休憩場として個室を所望する。ここでの描写には驚く。

夫婦が雇い入れた若い男ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)は、穏やかさを装っていた夫婦の間に次第に漣を立てることになる。

カフタンドレスの繊細な仕立てのように、細やかな精神性に触れるドラマは哀しくとも美しい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る