岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

人と人が分かり合う事の難しさを描いた傑作

2023年07月13日

怪物

©2023「怪物」製作委員会

【出演】安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
【監督】是枝裕和

無自覚に他者を傷つけながら生きている人間

「万引き家族」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督が、数々の話題作を書いて現代のテレビドラマを牽引する脚本家・坂元裕二のオリジナル脚本を映画化した「怪物」は、今年の第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、見事に脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した。

是枝監督が自身が書いた脚本以外を映画化するのは、デビュー作の「幻の光」以来2本目。

「怪物」は黒澤明監督の「羅生門」のように同じ事件を三つの視点から描いた作品だが、視点が変わることで徐々に真実が見えてくる展開は内田けんじ監督の「運命じゃない人」に近い。

人は自分の見聞きした情報をもとに、誤った思い込みで他者を非難することが少なくない。

(以後の文章はストーリーに触れる内容なので、映画未見の方は鑑賞後にお読み頂くことをオススメします。)

息子が普通の家庭を持つことを願う母子家庭の母親(安藤サクラ)は、知らず知らずのうちに息子を追い込んでしまう。

子どもは都合の悪いことは口を閉ざし嘘をつく。その嘘が他者を窮地に陥れようとそこに悪意はない。

子どもの怪我等で学校に抗議にやってきた母親に対し、校長(田中裕子)を筆頭とする学校側は杓子定規な謝罪に終始することで、暴力をふるっていない担任教師(永山瑛太)を退職に追いやってしまう。

子供たちの視点で語られる第3章で真実が明らかになるが、他者に邪魔されない二人だけの世界の描写が印象的。

人と人が分かり合うことは難しく、人は勝手な思い込みで他者を怪物にしてしまう。「怪物」は、無自覚に他者を傷つけながら生きている人間の不器用さを、愛情を持って描いた傑作。

安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子、そして主役の少年ふたりが素晴らしい。

坂本龍一の音楽と、近藤龍人の撮影も特筆に値する。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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